開戦初日 夜 ページ15
空から黒い影が降ってきたのだ。丁度剣を突き出したところに降ってきたため、私の突きは降ってきた黒い影を貫き通すのみで終わってしまった。隙だらけの私は、死を悟った。だが。金の髪の青年は、私に打撃を加えずにそのまま下がっていった。
「邪魔が入っちまったな。でも、俺の負けだ。俺の名前はイスカーン。拳闘士団団長だ！お前は？」
「…シェータ・シンセシス・トゥエルブ。」
「シェータか！絶対また闘おうな、明日この場所で！」
そういい、イスカーンと名乗った青年は走り去って行った。部下の一人も連れて来ていなかったのは妙だと思ったが、あの人は私と恐らく同じなのだろう。シェータはほんの少し口許を緩め、周囲に敵がいないことを確認してほっと一息をついた。
「また…明日。」
胸が騒めく…でも高揚感を感じさせる何かは、シェータの一息と共に少し落ち着いた。
空は雲に暗く覆われ、星の一つすら見ることは叶わない。雲の隙間から僅かな月光が差し込み、地を照らす。
「明日、どうするか…。」
ある一つのテントの中で、今いる整合騎士の半分が集められていた。明日に向けた軍議である。
「今日だけでも、かなり相手側の戦力を削ったはずだ。休戦の申し出があってもいいはずなんだがな…。」
ベルクーリは俯き、若干の落胆を顔に浮かべる。
「とはいえだ。数万いたミニオンを、嬢ちゃん一人で殺しきったのは紛れも無い事実。感謝するぜ。」
「ありがとうございます、小父様。今の所、人界に大きな被害が出たという話は聞いていません。このままいけば、ダークテリトリーの方から勝手に休戦を申し出るのではないのですか？」
「そう簡単にいけばいいが…問題は相手の主導者が誰かってことだ。休戦してくれそうなやつに心当たりはあるんだが、そいつの剣気がまるで感じられねえ。もしかするともう死んじまってるかもな。相手の主導者の目的が、人界の占拠や人界軍の殺戮以外だった場合には休戦なんて話はあり得なくなる。せめて何の為にこの戦争をしてるのかだけでも知られれば話は別なんだが…。」
「直接探る…というのは少し無謀かしら。」
ファナティオ副騎士長が、ベルクーリの発言に対して言葉を返す。
「そうだな。知る方法としてはそれ以外無い気もする。何も分からねえのにカマかけるような真似したって、何の意味もねえ。…よし。」
何かを決心したように、ベルクーリは椅子から立ち上がった。
「明日、俺はダークテリトリーに乗り込む。」
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作成日時：2019年11月23日 12時
