ひと呼吸 ページ9
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ああ…和也だ…。
全身で感じる居心地の良さ。
くはっと小さく吐息で笑い、「…A、あったけーなー(笑)」って。
いつもと同じおどけた言い方に、緊張した気持ちがほどけてくるのがわかる。
私が私で居られる場所。
泣きたいほど幸せな温もり。
だけど、私は…
ここにずっと居ることはできないのだから…。
いつだって和也が私に力を与えてくれた。
だから…今からだって頑張れる。
和也に、全部…話そう―――――。
「…あのね、和也」
「ん？」
「私…和也にいっぱい…伝えなきゃいけないことがある…」
涙をこらえ、ゆっくり身体を離して向き合うと、よいしょ…と和也も胡坐を組んで座り直した。
「…いーよ。んじゃ、お嬢さんの話を先に聴こっか？」
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弟の夢の話、叔父さんやサナちゃんの話。
お見合いのこと、マサトが病院に来たこと、若先生が叔父さんの独居に反対してること。
内示の話もした。
役員の不審な動き、センター長さんからの電話、そしてマサトの提案も。
和也とは結婚できない云々のくだり以外は、詰まったり言葉を探したりしながらできる限り正確に話した。
ただ…
だからどうしたい、とか、だからどうしてほしい、とか。
臆病な私は、迷うばかりでそこには触れず、事実だけを淡々と伝え続けた。
和也は電話で記者の人の話をした時と同じで、小さく相槌を打つだけで黙って私の話を聞いてくれていたけれど。
そのうち微かに表情が険しくなってきて、話を聞き終わると無表情で私を見た。
「アナタの話はわかりました。
叔父さんと同居してる弟に春から東京転勤の話があってー、叔父さんは1人暮らしを医者に反対されててー、Aには春から向こうで仕事って話があった。行けば3年では戻って来れないかもしれない…合ってる？」
「…うん」
「それで？Aはどーすんの？」
「……」
…そうだよね。
大事なのはこれからどうするか…私自身の結論だ。
「……。弟は…夢を叶える最後のチャンスだって言ってた。叔父さんも向こうで生き甲斐を見つけてる。
東京で好きにさせてもらってきた私が、2人のチャンスや生き甲斐を奪うなんて…できないよ…」
「…向こうに行くってこと？」
「……」
ひと呼吸おいて。
「…うん」
小さく頷くと和也は天井を見上げ、はーっと大きく穏やかに息を吐いた。
「私ね…仕事は辞めようと思ってる」
「…なんで？」
「業務上の評価じゃないと聞いて、吹っ切れたの」
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作者名：kico
| 作成日時：2019年5月30日 12時
