9 ページ23
＋＋＋
和也の運転を隣から見るのは、思っていた以上に新鮮だった。
真っ直ぐに前を見ている横顔も、運転しながら器用にエアコンやナビを操作している指先も、ミラーをさりげなく確認するときの視線も…。
どれも、後ろから見ているだけじゃ気付くことができなかった小さな瞬間。
そんな些細な瞬間のひとつひとつに和也を感じて、それだけでドキドキして胸がいっぱいで…
「お、見えてきた」
ただでさえ短いドライブ。
楽しい時間はあっという間に終わってしまったけれど。
こんなにドキドキできると思っていなかった私にとっては、本当に夢のような嬉しい時間。
＋＋＋
「これが…合宿所？」
「そ。何でも、お偉いさんの別荘にする予定だったらしいけど、そこそこ郊外で便利がいいから、オレらが入る少し前から無人の合宿所になってんの」
ほんとだ。
外観は合宿所というより、確かに別荘かも。
おしゃれな二階建てのコテージ。
表からは窓の中が見えないように、綺麗に刈り込まれた植え込みが青々と視界を遮っている。
玄関周りに綺麗に咲いている色とりどりの花を見ても、やっぱり別荘みたいだよね。
こんな郊外の合宿所でも、しっかりと手入れが行き届いているなんてすごいな。
さすが、和也たちの事務所だ。
それにしても…。
玄関の前には花壇と小さなロータリーがあるだけ。
通って来た道の両側には、緑の樹木が生い茂っている。
どこにも、肝心の桜の木が見当たらない。
和也からは、「ちょっとだけ遠回りして、早咲きの桜経由」としか聞いていなかった。
「経由」という言葉から、私は勝手にどこかの桜並木の下を車で通ってみる程度のことしか想像してなくて。
さっき、「合宿所の桜」というフレーズを初めて聞いて、ようやく頭に浮かんだイメージは、合宿所の前の道とか、駐車場の脇とか、玄関の前とか…そういう場所でよく見かける、桜のある光景。
それを車から眺めて行くのかなと思って、周りをきょろきょろと見渡してみたけれど…やっぱり目に入る風景のどこにも桜の木はなさそうだ。
あれ、桜はどこにあるのかな…？
首を傾げているうちに、車は玄関先のロータリーに入って停まった。
どうして、わざわざ車を停めたんだろう…？
よく状況が飲み込めていない私をよそに、和也がエンジンを落としてキャップを被り直す。
「はい、着きましたー。…降りるよ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kico(プロフ) - ゆうきさん» 初めまして。自己満足で書いてきた勝手な妄想ですが楽しんで頂けたのなら嬉しいです。もう新しいお話は書きませんが、いつかどこかで何かのご縁があった時には♪どのお話にも愛だけは目いっぱい籠めて書いてきました。最期まで読んでくださってありがとうございました^^ (2020年10月12日 9時) (
レス) id: 890f6f329d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - 初めて送ります…ウラつく読者デビューは、この作品でした。とても楽しく読ませて貰いました。もっと読みたいなあと言うのが正直な気持ちです。 (2020年10月9日 20時) (レス) id: 62321c58f8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kico
| 作成日時：2016年3月26日 12時
