プロローグ ページ2
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『──千菜!!』
『……もう馴れ馴れしくしないでくれない? 孤児の知り合いがいるなんてバレたら、変な目で見られるじゃん』
──ああ、またこの夢。相変わらずキッついこと言っちゃってなぁ。
『もうあんた達とわたしは、住む世界が違うんだから』
あの頃、そう言ってわたしは彼らから離れていった。一秒でも早く離れなくてはいけなかった。
わたしが巻き込まれてしまった問題に、何よりも大切な『彼ら』を巻き込んでしまいたくなかったから。
『じゃあね。もう会うこともないだろうけど。せいぜい兄弟仲良く暮らしていけば』
わたしはもう、あの優しい空間にいられない。
『……』
振り返ることは、できなかった。
瞳に映さなくても二人がわたしを軽蔑した目で見ているのを感じたから。
『ごめ、ん。ごめんね、じろ、さぶろ……』
次から次へと涙が溢れて、それでも離れるまでは拭うことすらできなかった。少しでも勘づかれてはいけなかったから。
『へ、ようやく捕まえた。手間かけさせやがって。親父にドヤされるのは俺らなんだぞ! このガキが!』
『……』
『それにしても、ひっでぇ言い草だなぁ。仮にも同じ屋根の下で暮らした奴らだってのに。あいつらを使ってお前を大人しくさせようと思ったが……まあいい、その手間もいらなかったようだしな』
──絶対に、未練を見せては、いけなかった。
◆
「いい加減、なんとかならないかな。この夢……」
過去の夢から目覚めたわたしは、深いため息をついた。
スマホから流れる目覚ましの音が、あの夢から呼び起こしてくれたようだ。
もう何年も前のことなのに、こうして夢に見るのは引きずっている証拠なのか。
「……やめやめ! 早く準備しないと!」
湿っぽくなりそうだったので、気持ちを切り替えわたしはベッドから起き上がった。
今日は横浜のダーツバーでバイトの日。なかなかに敷居が高い店なだけあって時給は高額だ。
「よし、今日も頑張ろう」
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作者名:夏 | 作成日時:2020年2月14日 20時