Kleinod Ⅳ (ページ40)

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「もう終わらせたい」
そう思ったのは果たしていつ頃からだっただろう。
もういつだったかも覚えていない。
嘘をつく度に、どんどん「高地優吾」という名の存在がわからなくなっていく。
誰かが心配そうにこちらを見る度にどんどん乖離していくような感覚に襲われる。
メンバーに嘘をつき続ける度にそれが本当に嘘なのかわからなくなっていく。

僕は「高地優吾」でありたいのに、いっつも心のどこかで何かが邪魔をするんだよ。
「そんな事自分はしない」って、「名無しさん」が客観的に呟いて。
今までなかった「自己」がさ、勝手に出てくるっていうの？
もうそれで訳わかんなくなっちゃった。
僕は僕に嘘をついて、「高地優吾」は辻褄合わせの為に嘘をついて。
どれが本当の事なんだかわかんないよ。

ねぇ、｢僕｣の存在って、本当のものだっけ。
どれが本当なんだっけ。もうわかんない、わかんないよ。
でも、「グループＳ」という居場所はなくしたくないから。
それがなくなって、また「名無しさん」に戻ってしまうのは、嫌だから。

(…あぁ、でももし、俺が原因だって知ったら、あいつらは｢俺｣の事を嫌っちゃうかな)
きっと嫌って、僕の事追い出しちゃうだろうなぁ。
そしたら、僕は強制的にまた「名無しさん」だ。
それは、嫌だなぁ。「グループS」も、「高地優吾」もいなくなってしまうのは。

だから、もう少し、時間が続く限り。
せめて、メンバーに贖罪が出来るその日まで、
樹の「もう１人の存在」を消して
北斗の「自制心」を取り戻して
大我の「失われた色」を返して
ジェシーの「冷えてしまった体」を温めて
慎太郎の「存在している証」を示すまで、

「一緒にグループSでいさせて」

──彼は、元々「優しい嘘吐き」の異名を持つ「詐欺師」である。