Kleinod Ⅳ (ページ15)

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あぁやっと「扇動」してくれた。
甘い甘い、丁度いい心地良さの甘さに酔いしれるようにその言葉を享受する。
不安になったから、彼から安心出来る言葉が欲しかった。
怖かったから、彼に慰めて欲しかった。
負のスパイラルに陥った自分をまたあの時の様に救い出して欲しかった。

やだ、こわい、くるしい、こわい、こわい、たすけて、こーち、
恐いのも辛いのも傷付くのも嫌だから、このままずっと荒波に飲まれてしまったらどうしよう。
どうも出来ない。助けてくれるのは、高地しかいない。高地しか知らない。
自分を助けてくれたのは高地だから、高地だけは絶対に嘘をつかないってわかりきっているから。
もし仮に、ないとは思うけどグループSのメンバーが裏切る事があっても、高地だけは絶対に裏切らない、ってわかっているから。

…なんて、彼は彼の気付かない内に暗示をかけていた。
「扇動」の言葉をずっとずっとずっと待ち望んでいた。
信じている彼の言葉が1番の精神安定剤になっていた。
いつしか、それがないと生きていけないようになっていた。
宛ら、中毒症状に陥った患者のように。違法な薬を摂取しているかのように。
彼はもう高地が言ってくれる「甘言の扇動」がなければ、生きていけない。
その事に彼は気付いていない。盲信しているが故に、依存しているが故に気付けない。

高地は「扇動」に浸る松村の頬に残る涙痕を拭っていた。
松村「…こーち、」
高地「何？」
松村「俺の事、おいていかないでね」
高地「…」
松村「ひとりに、しないでね」
高地「…当たり前でしょ。俺は北斗の事【置いていったりしないよ】」

バニラのようなほんのり甘い言の葉に、気付けば彼の決壊されていたものは修復されていたらしい。
多幸感に満ちているが故に、彼は気付いていなかったのだ。
メンバーに「扇動」を使う事に、高地がずっと罪悪感を抱えている事なんて、甘言に浸る彼が気付くはずもなかったのだ。