《続》告る前に振られた。【伏黒恵】

ただいま ページ10

「…」



Aのいる部屋。

目の前に扉があって、その先にいるのに。

…どこか入りにくい。


もし記憶が戻っていなかったら。

戻っていても、俺だけを忘れているなんてことが起こったら。



…やめよう。その時はそのときだ。



「…ふぅ」



深呼吸を一つして、扉を開けた。


キィ…







「恵ぃぃいいいッッ！！！！」





「！？ っは、は…？」



突然のことに驚いたが、受け止めた切れたのでよろけただけで済んだ。
…鍛えてて良かった。

そして、胸に目を移せば、えぐえぐと泣きついているなにか。



「…A…？」


『…うぅ…ッ不甲斐ない…っうあ゛ああ…っ』



泣いているのか、声が裏返ったりしているが、Aだった。


「え、あ…」


今になって、謎の時差で顔に熱が集まっていく。

部屋の中を見れば、虎杖と釘崎がにやにやとしながらこっちを見ていた。


「お・め・で・と・う」

「よ・く・や・っ・た」


口パクでそう言っていた。

オマエら…



「…あ・り・が・と・な」



オマエらのおかげで、俺は救われたんだ。

オマエらのおかげで、俺は前に進めたんだ。

オマエらのおかげで、俺は気づけた。



『う゛う゛う゛…悠仁達から聞いた…！わたしのせいで…ッ』



顔をあげてそう言ってぼろぼろと涙を流すA。
その涙を指で拭った。


『ごめッ…ごめん…ッ！』


「…A、泣くな」




オマエは優しすぎる。


…こんなことで泣いてくれるなんて、期待してしまう。


…意味のないことなのに。




「…ただいま」



そう言って軽く抱きしめれば、Aはまた涙を溢れさせて言った。





『お゛かえ゛り゛っ…』

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