もう恋心なんて忘れた (ページ32)

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K ページ32

忘れたいと思った。自分の意志だってがあいつに醜く甘えてしまった自分を。

何故あいつがあんな事を言ってくる意図は分からなかったけど、その言葉は消化されることなく空気の外に吐き出されていた。

それは俺の中には受け入れられない自分がいたからだ。期待に染まってしまった自分自身を隠すかのように。

今期待に身を委ねて受け入れてしまうとまたあの時のように後悔してしまうのだと感じ取った。その心情とは裏腹に正直な本心を口に出してしまいそうだったけれど、再び助けてくれた玉ちゃんには感謝しかない。

ことごとく昔からタイミングだけは良い彼に無意識ながらも頬が緩み、俺の表情には笑みが浮かんでいた。

「もー、なんで笑ってるの？」

「え？……あーいや、手つなぐの久しぶりだな～って思って」

「ほんとかー？」

彼は俺を引っ張るように前を歩いていたのにいつの間にか隣についていて、悪態をついている。そんな玉たゃんを昔と無意識に比べていて、可愛いなという感情が溢れ出す。

けれど再度彼をよく見ると昔とは大違いでまた心の鼓動が早くなった。

先程までは青い空にまばゆく太陽が浮かんでいたのに、日はとっくに暮れていて悲しそうにオレンジの光を向ける夕日が目の前にあった。

そこからは終始無言で、けれど決して手を握る力は緩めず、まるで彼に縋りついているかのような自分が嫌になる。

あいつを忘れたいから、彼に寄り付き口実にする自分がいた。悔しいと思ったし、それもいいんじゃない？と甘える俺が頭の中で交互に行き来している。本当に自分自身が嫌いになる。

けれどそれに反してあいつの想いを真剣に考えようとすると涙が出そうで、意外に女々しい気持ちを必死に隠す。

もうぐちゃぐちゃにかき乱された俺の心は疲れ切ってしまっているらしい。深く息を吸って吐き出す。いつもは落ち着かせてくれる溜息は、全く効果が無く肺に冷たい空気が送られてキリキリと痛みを帯びるだけだった。

考え事をしていたせいで俯いてしまった顔は、ずっと歩みを進めていた玉ちゃんがいきなり止まりつながれた手に軽く引っ張られたことでやっと背景を視界に入れる。

するとその目の前には木々に囲まれた小さな神社があった。とても古びていて高さもあまりなく、玉ちゃんより頭四個分上ぐらいだ。

鳥居も無く、賽銭箱も無い。紅白に染まった太い糸とその上に付けられた大きい鈴しか目立つものが無かった。コンクリートはカーペットのように真ん中にだけ引き詰められていて、他は少し荒れた土が露になっている。