もう恋心なんて忘れた (ページ2)

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俺は目の前にいる男に驚いて身体が硬直する。驚かずにはいられなかった。それは今目の前にいるのは昔好きだった藤ヶ谷だっから。

あの時、藤ヶ谷にあんな事言われてこの想いを綺麗さっぱり忘れる事が出来ていたと思っていたが、胸の中に秘めていたかのように心の奥がとても熱く沸騰していた。

自分が思っている以上にその恋心は、べったり張り付いていて無くなることはなかったようだ。

まだ、藤ヶ谷が好きだという気持ちに気付いた俺は、悲しい感情が湧いてきて顔を歪める。そんな顔を彼奴に見せるのは癪だが、この悲しみを抑える事は出来なかった。

悲しみに浸っていた俺を藤ヶ谷は、酷く蔑むような冷たい目で見下す。そして硬直している自分の肩を少し強めに押すと言い放った。

「いつまで立ってんだよ。邪魔、」

その一言だけ言って藤ヶ谷は素早く足を動かして去っていってしまった。後から来た横尾さんに「ごめんね」と言っているかのように軽く手を合わせて藤ヶ谷の背中を追っていった。

藤ヶ谷に押された肩がじわじわと熱を帯びていた。その熱は、嬉しいからなのか悲しいからなのかそれともただ痛かったのかは自分には分からなかった。

けれど俺の心は、身体より酷く傷ついていてまっふたつに別れたように空っぽになった気分だった。

友達も唖然としていて、口をぽかんと開けっ放しにして硬直していた。気持ちの整理はまだついていないが、授業が始まってしまうと思い友達の肩を軽く叩いて素直に教室に入る。

その後、もちろん授業には一切集中する事が出来ず窓の方を向きながら空を軽く眺める。初めて窓辺の席で良かったと思った。

現実逃避するには丁度良い。空は青くくすんでいて無地のようにも見えた。雲はあったがとても霞んでいて、霧が浮かんでいるようだった。

車は適度に学校の前を通り過ぎていて、ブレーキ音とエンジン音が交互に聞こえてくる。校庭には生徒達が集まってバレーボールをしているようだった。

その生徒達をまじまじ見つめて、誰か知り合いがいないのかと時間潰しに探し始める。そんな自分がとても惨めだと思うが、今の俺にはこんな事をする事しかできなかった。

「……ぁ、」

目に映ってきたのは後輩の二階堂高嗣だった。他の生徒達に明るい笑顔を向けながら楽しそうにしている。二階堂とはサッカー部が同じで、最近一番仲がよい後輩という存在になっていた。

そんな楽しそうな二階堂を見ていると嫌な気持ちが空に飛んでいくかのように軽くなっていた。

流石ムードメーカ。