つづきはまた明日。

１６.Ｆ ページ16

震える指先に、自身の指先を絡める。
北山の緊張が、指先を通しておれの全身に伝わる。
何も発せず、ただキュッとその指先を絡めるだけ。


Ｋｉ「…っ、あの…、」


沈黙に耐え切れない、そんな顔しながら北山が小さく口を開く。指先は絡めたまま、逃げ腰な北山。
ソファの上でジリジリと離れていこうとする北山の手を、そのままギュッと掴んだ。


何だ、この甘い空気は。


Ｋｉ「っ、あのさ…ふじがやっ、」


これが…、恋人みたいな空気…？


逃げる北山を見つめ、ドラマの台本みたいな空気感に思わずフッと笑みが溢れる。
自分が経験した以上に甘く、こそばゆい空気に自然と心が小さく跳ねた。


「……こんな感じ？」


Ｋｉ「っ、へっ…？」


そっか。
おれの頭では演じているけど、北山には伝わっていない。
何がなんだかわからず、戸惑い慌てる北山に向かって、お互いに手を繋いだまま言葉を紡ぐ。


「…恋人みたいでしょ？空気が。」


言って初めて自覚する。


何でこんなにしっくりきてるんだろうと。
相手はただのメンバーで、今度一緒にドラマをするというだけの相手だ。
これは、ただ仕事がスムーズ終わればいいと、北山の悩みが少しでも解決できればいいと、ただそれだけの思いで…北山に触れているのに。


確かめるようにペタペタと北山の頬、首筋、身体と触っていく。


Ｋｉ「っ、やめ…ッ、」


触るたびに、身を捩り小さく抵抗し始める北山。
もどかしいその仕草に、ちょっとだけ悪戯心が芽生える。


「…きたやま、ね。ちょっとだけ。」


甘く、耳元で囁いたセリフに、ピタッと動きを止める。
素直に応じる北山が可愛いと思う。


掴んだ右手をグッと引っ張ったら、それに従うようにポスッと北山がおれの胸の中に落ちてくる。


Ｋｉ「…っ、」


これは、ちょっと本当にヤバイかもしれない。


頭の片隅に、自分が描く人物をイメージする。
目元にかかる前髪を撫であげて、そのまま耳にかける。
顕になった瞳に、緊張感で息を詰め何かに耐えるように北山の睫毛が揺れる。


Ｋｉ「っ、ふじ…がや、」


「…静かに。」


震える唇にそっと人差し指をあてる。
僅かに動く北山の唇を感じ取りながら、これ以上は、と抵抗する北山をグッと胸元に押し込めた。


トクントクンと小さく跳ねる音。
おれか、北山か。
重なって響くそれに、自然と頬が緩んでいる。


北山の髪に梳くように指先で触れる。

おれの胸の中で揺れるたび香るそれに、全身が…心が震えた気がした。

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