一杯のかけ蕎麦がくれた魔法 (ページ2)

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そんな気まずいやり取りをした後も、その店へ向かえば、その店員さんは今まで通り働いていた。

ファンにバレてもよく働くなーとか思いながらも、そっか、本物じゃないからか、と自分に言い聞かせる日々。

そうこうしているうちに本物の岸くんがデビューを果たした。

舞台でもテレビでもキラキラしている岸くん。

やっぱり本物はめちゃくちゃかっこいい。

本物を遠くから見ているだけで幸せかも、と開き直ることにした私は、

今まで通りそのお蕎麦屋さんに通いつつも、その店員さんばかり見ず、

たまに携帯を見たり、前より寛げるようになっていき、

「………ふーん」

箸を片手に、スマホでたまたまネットに流れてきた堂本光一くんの記事を見て、

一人ふふ、と笑っていると、

「え…」

頭上から声がした。

思わず顔を上げると、

「……光一くん、好きなんすか」

「……」

「……いや、何でもないっす」

「……」

照れたその仕草、泳ぐ目線、急に去って行く後ろ姿、その後頭部。

……やっぱりこの人は本物の岸くんなんじゃないか。

心臓がおかしくなりそうだった。

それでも咄嗟にネットで本物の岸くんの画像を調べたら、

やっぱりカウンターの奥に隠れたその店員さんと、耳の形も、眉の形も一緒だし。

さっきのやり取りも含めて、

これは絶対、隠しているだけで本物の岸くんなんだと。

抑えきれない気持ちのまま、その日初めて、私は良くないことを決断した。

バイトが何時に終わるのか、分からないから閉店まで待った。

そのまま外で待ち伏せした。

後をつけることにしたのだ。

しかし、

「っ、」

慣れない尾行だなんて、上手く行くわけがなかった。

途中で気付かれてしまい、タクシーを拾われ、巻かれてしまった。

……ああもうこのまま、二度と会えない気がする。