黄瀬涼太は好きな子にアタックできません14 (ページ9)

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650話ページ9

「試合、見てました！！明日頑張ってください！！」

「ありがとッス、ちょっと疲れててあんまり笑顔で対応できなくて申し訳ないッス」

トイレの前でぺこぺこと頭を下げる黄瀬くんの奥に、ポニーテールを揺らしながらハートを飛ばしている女の人が立っていて

彼女はリコさんの声に反応して顔を上げた

「あ、リコちゃん！！！！」

「もー、なに黄瀬くんに声かけてるの」

リコさんはそんな彼女に少し呆れた声を漏らして
私はリコさんの声に反応して振り返った黄瀬くんと思わず目があってしまった

「あれ、誠凜のカントクさん！！」

私と目があったはずなのにその視線は一瞬でそらされて、なぜか少しチクチクと心が痛い

「黄瀬くん、お疲れ様」

「え、リコちゃん知り合いなの！？メンバーに会いに行くって黄瀬くんのことだったの？！」

黄瀬くんの大きな体に隠れて見えない彼女は、やっぱり私が聞いたことのある声で
少し焦った様子でリコさんに怒涛の質問ラッシュをしている

「まあそりゃ、何回か戦ってたからねえ」

リコさんは少し呆れた声を漏らした後、私のことを思い出したように手招きをしてくれた
私はその手招きにおずおずと吸い寄せられていき、少し俯いたままリコさんの紹介を受ける

「この子ね、海常のマネージャーなんだけど、うちの大学志望の子でね」

「すごいバスケも上手だから、女バス入りたいんだって」

俯いた私の視界に映るのは「ミキさん」のものと思われる足と、少し手前に立ってる青いジャージ

他の人の声も聞こえないくらいに心臓がバクバクと鳴り響いていて、思わず私は呼吸の速度を早めてしまう

「Aちゃんっていうんだけど、」

その瞬間に空気が凍りついたような気がして
私はゆっくりと顔を上げた

目を開けると重なった視線の先にいたミキさんという女性は
やっぱり私がよく知っている、中学の時のバスケ部のキャプテンだった

「A…ちゃんって、…白河Aちゃん、、？？」

そうつぶやいた彼女は中学の頃からだいぶ見た目も変わっていて
お洒落な服装に、素敵な鞄を手にしている

「…覚えて、らっしゃったんですね」

私の言葉に少し驚きながら彼女は「当たり前じゃん！」と声を上げて

私の様子が少しおかしいことに気がついた黄瀬くんが
横で息を呑んだ音が聞こえた気がした