688話 ページ47
黄瀬side
インタビューが終わり表彰式の集合まで残り30分を切った頃、俺たちはその場でゆるく解散になった
俺が高さの合わない松葉杖を挟んで不自由に立ち上がろうとすると、周りにいた仲間たちが即座に手を差し伸べてくれて
それと同時に心が突然熱くなる
「あぁ、申し訳ないッスわ、」
みんな試合の後でクタクタなはずなのに
そんなことを気にせずに差し伸べてくれる手が暖かい
俺が立ち上がると同時にスタッフさんが椅子を片付け始め、そんな様子を背にロッカールームに戻ろうとした時だった
「あっ、いた、…涼太!!!」
突然前から聞こえた声に、下を向いていた俺が顔をあげると
そこには思いもよらぬ人が立っていた
「さ、佐久間さん…!!」
私服だろうが仕事だろうがいつも整っている佐久間さんは今日もおしゃれだ、なんて急に思って
そんなことを考えながら顔まで視線を上げたところで
俺は驚きの声を上げた
「うぅっ、うぇぇ、っズビッ、涼太ぁ〜…っ」
「えええなんで俺より泣いてるんスか!?」
ワタワタしながらも俺は脇に抱えた松葉杖を手放すこともできず、片手だけ彼の肩へと添える
「…涼太の顔見たらがまんできなかっだぁぁ〜…っ」
そう告げながら俺の顔を見上げた佐久間さんの目は既に腫れていて、
そんな姿に俺は思わず微笑んでしまった
「応援来てくれて嬉しいッス」
なんだかんだ佐久間さんに試合を見に来てもらうのは初めてのことで、俺も感想を聞きたいところだが
今はそれどころではないらしい
「涼太は、すごい世界で生きてたんだなぁ、…っ、おめでとう、おめでとう、涼太…っ」
目の前で激しく目を擦る佐久間さんを見て、あれ、もしかして自分の両親より喜んでくれているのではないだろうかなんて思って
さらに佐久間さんの背中をさすりながらふと顔を上げる
すると視界の端で小さく立っていたAと目があった
彼女は俺と目が合うと、あ、と声を出したような顔をして
そして自然と口角を上げる
目の前で泣いてくれている佐久間さんや、支えてくれたメンバー、そして彼女の笑顔を見たところで
やっと優勝したんだという実感が湧いてきて
俺はグッと目頭が熱くなっていくのを感じる
それと同時に目の前にいる彼が佐久間さんだということをきっと彼女は知らないだろうと思った俺は
彼女を小さく手招きした
不安に思ったAは「私?」と眉毛を上げながら自分に指をさす
俺はそんな彼女に微笑みながら小さく頷いた
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作者名:りん | 作成日時:2021年3月19日 10時