653話 ページ12
午後の試合は案外あっさりと終わってしまった
私たちの準決勝とはまったくもって違うほどに圧勝で
それを見た私たちは何も口にすることができなかった
準決勝に気を抜いていたわけではないけど
明日この相手と戦うのかと思うと心底足が震える
特に余裕の表情を見せるわけでもなく、焦りを見せるわけでもなく
私たちは何も口にせずに静かに立ち上がって観覧席を後にした
大きな門を潜ってロビーのようなところに出ると、そこには人がごった返していて
しかし私たちのジャージを見るとすぐに他の観客が距離を置いていく
「…海常だ、」
「…え、黄瀬くん、ほんもの?」
周りの他の高校の選手や観客たちのどよめきは私たちの耳にも筒抜けで
私はそれを聴こえないふりをしながらすました顔でただ足を動かした
「…あっ、A!」
会場を出ると、聞きなれた声がして
ふと視線をあげるとそこには見慣れたグレーの制服姿のリナが立っていた
「リナ、!待っててくれたの?」
海常の軍からスッと抜けてリナに駆け寄ると、リナが「当たり前じゃん!」と微笑んで
そんなリナの後ろにはオレンジ色のジャージがちらついていた
「お疲れ様、ほんとに!あとおめでとう!」
リナの言葉に「ありがとう〜、」と疲れを表す大きなため息をつきながら返事をして
それと同時に後ろのオレンジジャージが振り返る
「よ、お疲れ」
こうやって戦った後に話したことがあまりない為少しへんな感じがして
私は少し動揺をしながら彼に同じ言葉を返した
「気遣わなくていいから全然」
いつも通り明るい声で笑う高尾くんはポケットに入れていた手で頭をぼりぼりとかいて
「まぁ、っていっても無理か、」と続ける
「えっと、…本当、いい試合してくれてありがとう」
私が感謝を伝えると高尾くんは一瞬驚いた後いつもの笑顔に戻って
「こちらこそ」と小さく微笑んだ
「日本一は冬に決まるけどさ、…俺らにとっては夏の優勝が日本一だったみたいなとこあるから」
そう呟くと、彼はやさしく空を仰ぐ
その瞳は少し空を反射させて揺れていた
「何いってんスか」
私の後ろからしんみりした空気を壊す声がして振り向くと
そこには同じく海常の軍から抜けてきた黄瀬くんが立っていた
「今回もどうせ優勝本気で狙ってたくせに、弱音吐いてんじゃねぇっスよ」
「ちょ、黄瀬くん、」
少し強い口調で言いすぎている彼の言葉を私が遮ると
高尾くんはリナの前に一歩足を踏み出して
少し満足げに笑った
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作者名:りん | 作成日時:2021年3月19日 10時