黄瀬涼太は好きな子にアタックできません13 (ページ8)

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599話ページ8

咄嗟に振り返ると、そこには髪型も整えてメイクバッチリな彼が立っていて

顔と髪型には似合わないジャージ姿に思わず「ダッサその格好」と声が漏れる

私の呆れた顔に「うるせぇ！」と口を尖らせた彼は少しいつもと雰囲気が違くて
ジェントルマンなオーラを纏った彼は、そのままふわりと笑って

「でも、元気そうでよかった」と優しい声で呟いた

今までに聞いたことのないような彼の声に心臓が跳ね上がって、私は思わず「いつも元気だわ」と声を漏らす

「いや」

そんな強がりも秒で否定されて
彼は「黄瀬がいないだけでお前ってこんな辛そうな顔するんだって思ったよ」と笑った

黄瀬くんがいないだけで、…そんな辛い顔をしていたんだろうか

「文化祭、お前楽しみにしてたし、まあ黄瀬がいないんじゃ部活も締まんないとは思うけど、」

そう呟きながら彼はわたしの頬を無理やり片手で掴んで
「楽しもうぜ、最後だし」と笑った

フグのような顔面になったわたしはそのまま「あい」と声を出して、尾川くんはまた笑った

そんな彼を見て、わたしも笑った

久々に笑った気がする

それほどにわたしの高校生活は黄瀬くんで染まっていて、黄瀬くんに依存していたんだと心に深く傷が刻まれていくのを感じた

尾川くんの行動はいつだって読めなくて
わたしのことをなんとも思ってない割にはボディタッチや思わせぶりが多くて

でも他の女の子にも本当に同じことをしているのを見る限り
やっぱり彼はただの無自覚たらしなんだろうなと呆れてしまう

「ほんと、天然たらしだよね」

笑った勢いでそんな言葉が口から漏れていて
彼は口を大きく開けて「えーっ？！どこが？！うっそまじ！？」と驚いた

「まじ！」と私も負けない笑顔で彼を茶化して

「本当？」としつこく聞く彼に、「本当」と繰り返した

…本当、

…相手が黄瀬くんじゃなかったら、こんな、辛くなかったのにな