641話 ページ50
俺が放ったボールが弧を描き、俺の指の先でネットが揺れる
耳を貫くのはブザーの音
準々決勝は秀徳との接戦だった
変わらない緑間っちの殺人的なシュートと、3年間培ってきた高尾っちとの絆
それは夏から変わらない、いや、さらにパワーアップしていた
「「ッワァァァァァァァ!!!!!!」」
会場に上がる歓声は何故かあまり心地よくなく
俺は静かにシュートフォームから腕を振り下ろし、得点板を見つめた
89対91
歓声で騒がしくあまり音が聞こえない中、緑間っちが大きく口を開けて膝から崩れ落ちたのが見えて
俺はその時やっと、自分たちが勝ったのだと気づいた
試合の最中のことをほとんど覚えていないなんてこと、今まであっただろうか
視界の中で俺の後ろから緑間っちのもとへ走っていく10番のユニフォームが揺れて
それと同時に背中に激しい衝撃を感じた
「キャプテンっ!キャプテンっ!!!」
ふと俺の右肩に尾川が腕を回していることに気がつき、それと同時に俺も手をあげる
両手をふわふわと開いてみると、その手は小刻みに震えていた
「…俺、…勝った、?」
俺の言葉に尾川は少し驚いたような顔をして、満足げに微笑む
「…勝った!!!」
不安で押しつぶされそうだった俺は、さらにストレスがかかり首が締められるような感覚に陥った
無事、勝ち進んだ
しかしそれはまだこの苦しみから抜けられないということ
尾川に名前を呼ばれてふと顔を上げると、Aが色々と抱えて少し小走りで走ってきていて
喜ぶ様子のない俺を見て、少し不安そうなAは
静かに俺にタオルとボトルを差し出した
普段はコートの中までマネージャーが走ってくることはほとんどないが、少し具合が悪そうに見えたのだろうか
「お疲れ様、すごいよ、すごいよ、黄瀬くん、!!」
彼女は潤んだ目で小さく飛び跳ねていて
鳴り止まない歓声の中、俺は受け取ったボトルを力一杯握って口の中を満たしていった
整列をするまではずっとふわふわしていた気持ちで
俺は本当に試合をやり切ったのだろうか、と思ってしまうほどに記憶に残っていなかった
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作者名:りん | 作成日時:2021年2月25日 10時