638話 ページ47
昨日は結局夜まで止むことのなかった雨も、今日はすっかり晴れていて星が輝いている
俺は静かになった体育館で1人、一本一本確認するようにシュートを投げていた
もちろん残り練習していたのは俺だけではない
部活が終わった後の1時間はみんな各々練習をしていたのだが
明日のことがある、とみんな早めに切り上げてしまったようだ
そうなるだろうと読んでいた俺は、一度家に帰りやることを済ませて
もう一度体育館に足を運んで自主練を始めた
その頃にはもう誰1人残っていなかった
「…雨、晴れたね。よかった」
…1人を除いて
その声が耳に届いたと同時にボールがゴールネットを揺らして
ダムッダムッとボールが地面をはねていく
俺はそんなボールを眺めていた視線を、ゆっくりと彼女の視線に重ねた
「…ごめん、呼び出して」
俺が申し訳なさそうに呟くと、彼女はふるふると首を振って荷物を無造作に置いた
流石にこんな時間に彼女が残っている理由なんてない
そんな漫画のような展開は起こらないと踏んでいた俺は、事前に彼女を体育館に呼び出していた
「…私も、残るか悩んでたよ」
Aは俺に近づくことなく静かにベンチに座る
それと同時に、彼女の口が「最後だから、」と儚く動いた
すっかり寒くなった体育館で、Aは薄いタイツを履いた足元を温めるように擦り合わせていて
そんな姿に季節の流れを感じる
「ついこの間まで、夏だったはずなんスけどね」
「んふふ、そうだね」
俺がボールを拾って背中を向けると、彼女の少し弾んだ声が聞こえて
俺はその声がすごく心に刺さったような気がする
「…俺、優勝するぞ!なんてカッコつけてまとめてたッスけど、正直不安で押しつぶされそうなんスわ」
気がつくと口が勝手にふわふわと弱音を吐いていて、その言葉に手にどんどん力が込められていくのが自分でわかる
「今までの俺なら、ここで泣いてた」
自分を落ち着かせるように、俺はゆっくりと言葉を吐いていった
「でも、もう、今は前を見るしかないッスから」
俺がシュートを投げようと顔を上げた時に視界に入った彼女の顔は
少し驚いていて、そしてどこか嬉しそうだったような気がする
手からふわりとボールが離れていき、ボールはリングに触れずにシュバっとネットの乾いた音を響かせた
もう逃げない
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作者名:りん | 作成日時:2021年2月25日 10時