635話 ページ44
「はい、涼太くんご苦労様でした〜」
「ありがとうございました」
眩しい照明から抜けて、机に置いてあるペットボトルを手に取りながら大人の方々に挨拶をする
ペコペコしながら同じ言葉を繰り返し、楽屋へと足を運んだ
俺が着替えているとノックが鳴って
返事すると同時に開いたドアには佐久間さんが立っていた
「今日もいい笑顔だったヨ〜」
「はは、そーッスかね」
彼はタブレットを手に抱えながら俺の着替えをこうやっていつも見守っていて
その姿はまるで子供を見る親のようだといつも思う
なんて思いながらかちゃかちゃとベルトをいじっていると佐久間さんが突然口を開いた
「試合さぁ…、、俺、見に行ってもいい?」
いきなりの発言に思わずベルトを引っ張っていた右手が止まり
俺は「えっ」と情けない声をあげる
俺の顔は嬉しそうだったのか、佐久間さんは少し戸惑いつつも「あっ、ごめん!やだった!?やだよね?!」と謝ってきて
俺は思わず声を荒げた
「やなわけないじゃないッスか!!!きて!!きてください!!!!!来て!!!!!」
佐久間さんは俺が駄々をこねると少し嬉しそうな顔をして「わかった!いく!いくよ!!」と声をあげて、俺に場所を聞いてきた
こんなに長い付き合いなのに実はまだ試合を見てもらったことはなくて
俺は、そんないつも忙しい佐久間さんが俺の試合を見にきてくれるなんてそんな嬉しいことあるかよと思ってしまった
「涼太かっこいいんだろうな〜惚れないようにしないとな〜」
嬉しさを誤魔化しているつもりなのか俺に背を向けてタブレットをいじっている佐久間さんだけど
そんな背中はとても踊っている
「なにいってんスかマジで笑」
佐久間さんはその後も俺に場所を聞いたりユニフォームの色を聞いたり
何かと忙しそうで
まるで彼女とのデートを決めるような期待に、俺は答えられるだろうかと心底不安になりつつ
撮影現場をあとにした
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作者名:りん | 作成日時:2021年2月25日 10時