黄瀬涼太は好きな子にアタックできません13 (ページ32)

今日:11 hit、昨日:3 hit、合計:37,258 hit

623話ページ32

花火が上がると言うことは、もうこの後夜祭も終わりを迎えると言うこと

長かったような短かったような今日1日を振り返って
そして隣に座る彼の存在の大切さを噛み締めるように足を引き寄せる

それと同時に砂が音を立てて、その音すらも花火にかき消されていく

普段あまり強く物を言わないわたしが黄瀬くんを怒鳴りつけてまで一緒に出たかった文化祭は
案外あっけなく、あっという間に終わってしまった

こんな文化祭のことを考えたら当たり前にアメリカ行く方がいいし、今考えるとなんでわたしはあの時あんなに喚いたんだろうと恥ずかしくなる

すげー、と長いまつ毛を靡かせて空を見上げる彼に、私はやっと、いえなかった言葉を口にした

「ごめんね」

花火でかき消してくれればいいのに、彼は私の言葉は鮮明に聞き取ったようで
少し驚いた顔で私を見た後、優しく微笑んで「もういいって」と呟いた

「それに、」と続けた黄瀬くんはまた空を見上げて

「文化祭、一緒に出ればよかったってちょっと後悔してるッスよ」

と、儚げに言葉を吐いた

その顔は笑っていたけれど、目には表情がなく
彼の瞳に映る炎はゆらゆらと揺れていた

「…え、なんでなんで！？」

「いや、…終わってからでもよかったかなとか色々考えちゃったんスよ」

体を乗り出して質問した私に彼はまたいつもの笑顔に戻ってそう答えて

そんな彼に、「私は逆に、黄瀬くんはやっぱり今行くべきだったんだなって思ったよ」と続ける

ゆっくりと私の方を向いた彼に振り向かず
私もまっすぐ前を向いたまま、「結局、今が一番、なんだよ」と呟いた

臓器にまで響く花火の音は、落ち着こうと息を整える私の心臓の音を乱していくようだった

少し心地の良い沈黙が私たちを包んだ後、黄瀬くんは体育座りをしていた体制を崩して、小さくため息をついて口を開いた

「さっきさ、尾川たちがめっちゃ楽しそうに劇の話ししてくれて

めっっっっちゃ嫉妬した」

言い合えると同時に鼻で笑って、彼は「あとはさ、」と続ける

「ほら、…一年のときのWCで会った火神っちの師匠にアメリカで会ったんスけど」

「なんか、Aの事考えてる時に彼女の姿が何度もAとかさなってw」

「まじ病気かよって思ったッスわ」

笑い混じりに私に話す声は少し寂しそうで
しかし同じ経験をしていたことが嬉しくなった私は、体育座りの腕の中に顔を埋めて

「…それ、私も何度もなった」と小さい声でつぶやいた