黄瀬涼太は好きな子にアタックできません12 (ページ25)

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567話ページ25

洗濯済みのビブスを取り出した私は、そのまま横にあったラックに一枚ずつ干してドアに鍵を閉める

もうすっかり日も短くなって
私は電気のない廊下に少し背中を震わせた

しかし体育館には大好きな彼の姿があって、私は少し温かい気持ちになった

全て仕事を終えて、やっと帰れるようになった私は
ベンチでスマホをいじっていた黄瀬くんに「お待たせ」と声をかけて
それと同時に彼は「お疲れ様」と呟きながら立ち上がった

既に帰宅の準備を終えたカバンを持ち上げて
黄瀬くんに「帰ろっか」と呟くと、立ち上がる様子のない黄瀬くんに少し違和感を覚える

心配になって彼の顔を伺うけれど、下を向いた黄瀬くんは今どんな表情なのか見ることができない

そんなことを思っていたら黄瀬くんは顔をあげて
少し余裕のない表情と目があったと同時に

心臓が、ばくんと大きく鳴った

「ねぇ、A」

何か雰囲気が違うと察した私に気が付いたのか、黄瀬くんはベンチに手を添えながら

「ここ、座って」と呟いた

カバンを持ったまま椅子にもう一度かけると
黄瀬くんはわたしにも隠さず大きく深呼吸をした

緊張でどれくらい経ったかわからない沈黙に呼吸が浅くなっていくわたしに

「文化祭、出られないかわからないじゃなくて」

黄瀬くんはそっと口を開いて

「出られない」

と呟いた

「えっ、？」

頭の中で言葉の意味はわかっているのに理解するのを拒もうとするように受け付けない私の脳

「…」

やっとの思いで口にした様子の黄瀬くんは
私と目も合わせないまま、下を向いている

そんな黄瀬くんに、私が「…なんで、？」と聞き返すと黄瀬くんが少し唇を噛んだのが見えてまた心臓が締め付けられた

ただ漠然と広い体育館で
なぜか心に虚しさを感じて

何か普通ではない空気を察知したと同時に

「火神っちと一緒に、アメリカに帰る」

黄瀬くんはハッキリとそう口にした