黄瀬涼太は好きな子にアタックできません12 (ページ20)

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562話　文化祭の季節ページ20

Aside

9月も半ばに差し掛かり、私たちは高校生活最後の文化祭に心を躍らせていた

私たち海常高校では、毎年３年生は何か出し物をやることが多い
まあ別に模擬店をやる選択肢もあるんだけど、なんとなく3年生は出し物をやると言う暗黙のルールがあった

この間のホームルームではあっけなくシナリオライターが決まり
今日はそのシナリオが出来上がったので、ざっとみんなで目を通し、配役を決めるらしい

文化祭の実行委員は相変わらず楽しそうな声を上げながら黒板に文字を並べていき
そんな委員の背中を見ながら私は少しため息をついた

配られたシナリオに目を通すと、どうやら主人公は男のようで
あまり女性の登場が多い内容ではない印象を受けた

私は何をしようかなぁと考えながら記入されていく黒板を見つめていると、実行委員が「じゃあもう主人公からいこう」とこえをあげて

「主人公やりたい人！！」という声と共にクラスが静まり返った空気に包まれる

クラスを見渡すとみんながみんなを見渡している状態で、ところどころで「お前がやれよ」と茶化しあう声が聞こえてくる

無意識に黄瀬くんに視線をやると、黄瀬くんは窓に顎を向けながらどこか遠くを見つめていた

何、考えてるのかな、と少し彼のことを考えていたら
同時に「黄瀬くんでいいじゃん！？」とどこかから声が上がり
その声に反応して振り返った彼と視線が重なった

見ていたことがバレる、と思って視線を逸らした私には気づいたのか気づいていないのか

みんなの視線を一気に集めた黄瀬くんは「あー、」と申し訳なさそうな顔をして

「今年も、出れるか分かんないッスから、…俺はパスッスわ、」と寂しそうな顔で笑った

その言葉に胸をひとさしされたのはもちろん周りのみんなだけではなく、
ふと頭に２年前の約束がよぎった私は、思わず歯を食いしばった

結局黄瀬くんとはまともに文化祭を楽しんなことがない

まあもちろん相手は大スターですし、簡単に出せる人ではないことは分かっているつもりだ

でも、やはり現実を突きつけられるとどこかいいよと言い切れない部分があるような気がした

バッサリと断った黄瀬くんの言葉にクラスのみんなが頭を悩ませていたら

「はい！！！」と聞き慣れた声が手をあげていて

「俺、やりたいです」

その声に振り向くと、黄瀬くんとは反対の席で
尾川くんが元気よく手をあげていた