思い出のオンボロバイク《龍宮寺堅》

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「明日から夏休みだが受験生には夏休みはないぞ！羽目を外さないように！」



テンプレのような台詞を担任が言う。
担任の話を真面目に聞いている生徒はクラスの3分の1程度で、私は3分の2の方に入る。
成績は中の上。
今は引退したけれどバスケ部に所属し、無遅刻無欠席。
内申点も悪くない。
行きたい大学への判定は[B]で、まぁまぁ安定している方である。



「Aー、夏休みの予定は？」
『海行きたいなぁ…』
「いきなり羽目外すやつ！」
『勉強してバイクで息抜きして勉強して……』



龍宮寺君に会いたいなぁ…と心の中で呟いた。
あれから1週間、連絡がある訳もなく、バイクの調子が悪くなる事もなく、本当にアレっきり。



「夏休み、遊ぼうよー」
「今日、帰り買い物行かない？」
「行く行くー」
「Aはー？」
『………行く』



行って買い物して忘れよう。
飼い犬に手を噛まれた程度の事だったのだと思おうと、私は帰り支度をした。

数人の友人達と買い物へ。
ファミレスで食事をして、プリクラを撮って、服や鞄を見たりして。
夏のショッピングモールには水着売り場もあって、自分では絶対選ばないようなソレを友人に進められたりして。



『ビキニは無理でしょう』
「若い内は出さないと！」



これ着て夏の間に海かプール行こー！って誰かが言い出して、文句を言いながらも買ってしまったホルターネックの水着。
三角ビキニは流石に勘弁してと、ショートパンツ付きの物を選んだ。



「次どーする？カラオケ行くー？」
『あ、ゴメン、電話……』



見知らぬ番号の着信。
友人達に先に行くように伝えて、通話ボタンを押した。



『もしもし？』
"勉強してたか？"
『え？』
"日曜日、10時にいつものコンビニ集合"
『は？』
"アイツ等が連れて来いってウッセーんだよ"
『え、り、龍宮寺…くん？』
"これ、オレの番号だから登録しとけ、じゃあな"
『ちょ、待って！』
"んーだよ、まだ何かあんのかよ"
『日曜日は何処に……？』
"海だよ、うーみ！三ツ谷が言ってただろ？"



再度、じゃあな、と言って切れた電話。
"来週の日曜日ヒマ？東卍の奴らで海行くんだけどー"と言っていた三ツ谷君の言葉が頭を反芻する。
そして着信履歴に残された090から始まる見知らぬ番号。
龍宮寺君からの突然の連絡に驚いて、友人達には母からの電話だったと嘘をついた。

友人が楽しそうに歌っていても頭に入ってくる事はなく、水着の入った紙袋を膝の上で抱きしめていた。



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