晴れ時々、かなり晴れ【逆先夏目】 (ページ9)

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9.暑い日ページ9

「暑いてこれガチで溶ける暑い暑いあつい」
「もっと暑くなるから黙っててくれル…」
「あんたの魔法(笑)でどうにかできないわけ」
「頭から硫酸ぶっかけてあげようカ」

　8月のある土曜日、午前10時。朝早くからA宅に遊びに来た逆先はAママにアイスをもらって縁側で幼馴染と二人ぼんやりしていたのだが、太陽が上に登るにつれて日向近くにいるのが辛くなる。最初は縁側から足を出してぷらぷらしていた二人も、じわじわと後ろに下がって今では縁側の奥にある部屋から外を見ていた。風情だなんだと言っても、結局、夏に勝つのはよく効いた空調だけである。

　今日はAのプロデュースもないし、逆先の練習もない。二人合わせた完全なオフである。だからこうして逆先はAの家に来たわけだが、こうも暑いと何もやる気が起きない。どこか行こうかと提案してみても、外気と太陽光に晒されるような場所にはなるべく行きたくないというのが総意である。

　Aはもーだめ、と畳の上へと上半身を投げ出して仰向けになった。フローリングのような冷たさはないが、汗で肌がベタつくこともない。自分の家の中でも、この畳の部屋はお気に入りであった。だから逆先が来たときは、自分の部屋ではなくここへ通すことにしている。それに自分の部屋っていつも散らかっているし。

　逆先もお邪魔している手前、最初こそ行儀よくしているが、結局は時間が経てば寝転がってゲームをしていたりする。Aママはそんな逆先のことも「あの子ほんとに小さい頃から思ってたけど綺麗に育ったわねエ、あんたもちょっとはお化粧とか気を遣ンなさいよ」と言って、まあつまりべた褒め・べた惚れである。逆先も彼女の母親のことは「美智子さん」と名前で呼ぶし、かなり「良い人」の部類に分けられているのは傍目から見てもよく分かる。
　Aは逆先ママのことを「夏目マミィ」と幼馴染に倣って呼んでおり、逆先ママは彼女のことを「Aちゃん」と呼んで可愛がり、「娘ができたみたいよ」と言ってよく服やアクセサリーをくれたりする。つまり、逆先家とA家は家ぐるみの付き合いということ。

「アッツやっぱりどっか涼しいとこ行こうよ」
「ここが一番涼しいヨ」
「出不精すぎるて」
「じゃあどこ行くのサ。ここより涼しい場所なんて、それこそ水族館くらいしカ…、・・・」
「え、いいじゃん水族館」

　今日遊びに行く場所、決定である。