8.夜間学校-2 ページ8
思い返せば。逆先が彼女の我儘に応えてやったときはいつも後から「あのときのお礼」とか何とか言いながらお菓子をくれたり、それこそ逆先が困っているときに手を貸してくれたりするのだ。
とすると、今回も着いて行くだけの仕事だし。自分は横を着いて歩くだけで良い。それで今度、帰り道にある行きたかったお店のアイスクリームでも買ってもらおうかしら。
そこまで辿り着いた逆先は、ウーンとわざと悩ましげな声を出してから、「まあいいヨ、可哀想だしネ」と、言ってやるのであった。
『何でちょっと恩着せがましいの』
■
「あって良かったーーほんとに良かった」
警備員のおじさんに「気をつけて帰るんだよ」と校門まで見送られながら、無事に取り戻したファイルをもう離すまいと握り締めたAがほっとため息をついた。当たり前に外は真っ暗で、街灯の明かりを頼りに最寄り駅まで歩く。
こんな時間から外に出たことも、ましてや学校に行くこともなかったからか新鮮な気持ちである。
両親には「夏目と学校に忘れ物取りに行ってくる」と言えば、「やだもうちょっと早く言ってくれたら車で送ってってあげたのに お酒飲んじゃったわよ」と言われた。
まあしかし、これも彼女たちの楽しい思い出のひとつになるだろうか。
「ありがとね ついて来てくれて」
「別にいいヨ。今度なにか奢ってもらうシ」
「えっ今日乗って夏目のご厚意じゃないの？」
「ボランティアじゃないんだかラ」
とは言え、こうして二人でゆっくり歩くのも乙なものであったりする。
夜空には星が煌めいて、夏とはいえ夜風が吹いて暑苦しくない。それはもう9月も近いからなのか。こんなに何年も一緒にいると改めて話すことも無くなってくるものだが、今だけは敢えて会話を続けずとも、不自然じゃない無言を楽しむことができた。
夏目はお風呂上がりだったので、最低限電車に乗っても許されるようにと白Tシャツに黒のパンツを合わせた。それにつっかけ。ただ保湿をして顔がテカテカなので、マスクを付けている。
Aはワンピースを一枚ぺろんと着て、髪も適当にお団子にしていた。二人とも、夏らしくて大変よろしい。
二人は帰りながら色々なことを話した。
毎日一緒に登下校はしているし、それこそ今も下校途中のようなものだが。周りが暗いと視界も変わって、目線も変わっていつもと違う道に見えるのだ。
■
「で、来週のサイン会は来ないんだっケ」
「ネイル行く」
「薄情者」
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作者名：アボカドサラダ | 作成日時：2023年8月18日 21時
