19.サンプル・デュエル ページ19
「俺のターン、ドロー！ 文暗堂のカステラを召喚！」
「負けじゃん」
「場のカステラで敵の煎餅セットにアタック、続けて消費期限の近いお前のチョコにも追加攻撃！ ターンエンド！」
「いやお前追加攻撃とかはナシだろ！ 一つだけだろ！」
「おいライフで受けろよ！ ライフライフ！」
「ライフで受けたらどうなんの」
現在、昼休み。Aクラスの男子生徒たちが一ヶ月ぶりに開催されたサンプル・デュエル大会に熱を上げていた。
サンプル・デュエルに詳しいルールはない。サンプルの化粧品や御礼品のお菓子などを手札としてデュエルし、とにかく勝った者が欲しいものをもらえるのだ。勝ち負けを決めるのはその商品の相場であり、例えば漆のお箸セットで市販のグミにアタックすれば勝つのはお箸セットである。しかしかと言って値段の問題ではなく、5万円分のスキンケアセットと2万円分の限定クリスマスコフレなら勝つのは後者のクリスマスコフレである。
とまあこのように、その場のノリと独断と偏見で勝ち負けの決まる男子高校生らしい遊びであった。多方面に失礼すぎるため、外では決してできないことではあるが。
そんな白熱した戦いの中、教室の扉に仁王立ちする者が一人。彼もまた新たな手札を加えて戦いに挑みに来た強者である。
「頼もう！！」
「うお声デカ」
「なにデュエル？ 俺やっていい？」
「フン 貴様ごときこの俺様の新しい相棒で蹴散らしてくれるわ…見ろ！！」
「！？」
男が手にしたのはDior秋の新作サンプルセット。化粧水からファンデーション、新カラーのアイシャドウまでがセットになった大変お得な試供品たちである。秋の新作はまだ広告のみで売られていないため、今あれを手に入れれば物凄い値打ちになる。それに人によってはお金を払ってでも欲しい。
思わず相手役に立候補した男がゴクリと生唾を飲んだ。震える手にはしかし、しっかりと自分のデッキが。
「…ふ、ふん。俺だってな、前の雪辱を晴らすためにデッキを更に改良してんだよ 負けてたまるかってんだ」
「───・・・あ、あれはサンローランの香水サンプル！」
「おいヤベェって遊木ー！！ 遊木ー！ お前実況やれ実況！」
「でェエ！？ 僕！？」
「えやばい楽しそ〜夏目もなんか強そうなやつ持ってないの」
「無いしあっても全部Aに渡してるでショ」
「あそっか てことはこれ私もデュエル出れんのかな」
「出れるけどルール分かるノ？」
「ルールとかあるの？」
「さあネ…」
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作者名：アボカドサラダ | 作成日時：2023年8月18日 21時
