晴れ時々、かなり晴れ【逆先夏目】 (ページ15)

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15.家族旅行-3：海ページ15

「海…！オーシャンブルー…！これが、オキナワ…！東京に戻りたくない…！」
「それ毎回やるつもりなノ？」

　チェックインまでまだ時間があるからと、一行はフロントに大きな荷物を預け、ホテルの目の前に広がるビーチに出てきた。Aの言う通り目の前いっぱいに広がる青の海、白い砂浜、視界を構成する全てが幸せに見える。立つだけで、自分の中の幸せ度数がグングンと上がるような気さえした。

　実際にAは母親譲りの旅行好き、というより沖縄好きで───幼い頃からの洗脳の結果ではある───やはり母親と同じように毎年のこの旅行を楽しみにしているのだ。那覇空港の空気を吸うだけで足が震えるほどのわくわくを感じるし、沖縄の太陽は東京都は違う気がする。空気もカラッとしていて、東京より暑いはずなのにジメジメしない。町を歩く観光客の浮かれた装いも、普段なら着ない自分のキャミワンピとかも相まって、やっぱりAは沖縄が大好きだった。
　それになにより、今回は幼馴染も参加しているし。家族と旅行はよく行くが、そこに血の繋がりのない人が一人入るだけで非日常である。

　逆先も旅行は好きだった。彼は普段のあのよく分からない話し方とか、言動でいわゆる「変な子」として見られがちではあるが、その実欲望と、それから自分の知識の補充に対するパラメータはずば抜けている。───とAは思っている。昔から分からないことはそのままにしない子だったし、それに自分よりも、やはり賢い。それは単純に知識量だけでも、それから地頭だけでも。だって、そうでなければ彼がよく地下室に散らかしている読み方すら分からない記号の並んだ数式とか、その横にある専門書だとか、そういったものの説明がつかないから。彼に言わせてみれば自分の実験のための道具だけれど、傍から見れば難しいことをしているようにしか見えない。実際に、そうだろうし。
　だから彼は自分の知らない土地へ行くのも、そこで未知の体験をすることも好ましく思っていた。今回の旅行も、少しくらいはそういう考えがあってなのだろうか。

　───否。

「おいお前わたしが朝から化粧してたの知ってるよな顔水かけんな飛ばすなこっちに来るな！！」
「クレンジング代わりにネ♪」
「分かったアネッサ全部落としてやるからここに顔出せ」

　全部嘘。
　上に書いたことは全部違うっぽい。普通に幼馴染との旅行が楽しみだっただけである。的外れも良いところだ。