12.日常風景 ページ12
Aはポーチの中を覗き込むのをやめて、教室の後ろの方で固まっていた美男子たちにオーイと声をかけた。
「誰かマスカラ貸してー」
「持ってなーい」
「貸したくなーい」
「付けても変わらないよー」
「何なのあんたらホントに。愛嬌ないとこの業界やってけないよ！」
「けどほら俺ら…顔、可愛いから、さ…」
「歌って踊れちゃうから、さ…」
「ナイツより売れてから言え」
「それはお前卑怯だろ。土俵が違うだろ！」
「ナイツは違うだろ！ 引き合いに出すなよ」
「急に吠えるのウケる」
「Aちゃーんマスカラ！ 投げるよ！」
「あんただけだよアタシの味方は」
夢ノ咲学院のアイドル科。綺麗な顔の男の子しかいない教室に女の子が一人、と聞けばどうしても羨ましく思うし、どんな素敵な青春が待っているのだろうと想像してしまうのも仕方がない。
が、実際はこんなものである。Aが過度な女の子扱いをされないようにと自分で気を配っているのも確かだが、それ以上に“ただの友達”すぎる。Aの入学からまだ一年も経たないが、それにしても馴染みすぎである。
化粧品を忘れたら貸し借りをするし、おすすめのスキンケアを教え合うし、Aが生理のときなんて「誰もいらんこと話しかけてくれるな」と宣言をするし、誰かが彼女と別れた日には全員で大爆笑してやるのが礼儀である。それはもう大層、仲良く過ごしていた。
Aが逆先と仲が良いとは言ったが、決してその他との関係が悪いわけではない。周りに男の子しかいない分、一般的な共学よりも距離は近く・仲良く・楽しく関係を築いている。
まあそれも、Aの能力の一つなのかもしれない。
「クッサこのマスカラいつの？ 使用期限100年過ぎてるでしょ絶対 腐敗臭するんだけど」
「自分のコスメで使用期限気にしたことないくせに言うな！ それに先週買った！ それ元々そのニオイ！」
「最悪すぎ 俺あれ気になってたけど買うのやめとこ」
「それ僕がイメモなんだけどオ」
「お前のあれ見たけど盛れてなくね」
「うわ！ はい！ はい言ったね！ もうね！ 終わりですよ」
「ダル」
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作者名：アボカドサラダ | 作成日時：2023年8月18日 21時
