2.デコピン ページ2
「ねえ邪魔！ ジャマ！ ジャマ！ どけってえぇええ」
「フン。馬鹿だネ、これくらい一般教養だヨ。義務教育受けてないんじゃなイ」
「ウルセーッ」
教室の後ろで小さな円ができている。中心から、爽やかな朝には似つかわしくない爆音のゲーム音と叫び声が聞こえる。
一体何をそんなに騒いでいるのかと登校した明星スバルが首を伸ばせば、その中心にいるのはAと逆先であった。二人でゲーム機を手にしてやいのやいのと騒いでいるのである。
Aがギャーッと叫べば隣の逆先が「フッ」と小馬鹿にしたように笑い、逆先がムッと眉を寄せればAが「アーッハッハッハッ」と魔王と見まごう程の高笑いを見せた。
周りに集まったクラスメイトは各々の応援する方に「行けよオ」「ヘタクソ！！」と野次を飛ばしながら観戦しており、さながらそこはオヤジたちの集まる競馬場である。
まだ少し眠さの残る明星が元気だなあと自分の席に着いたところで、円からは一等大きな歓声がワッと上がった。
「はい負けーッ！ 負け！ 夏目の負け！」
「10回負けたクセに1回勝っただけで勝ち誇らないでくれル」
「そういうの負け惜しみで〜す！ 勝ちは勝ちだから。私が勝ってあんたが負け。敗者。あんたが落ちこぼれだよ」
「ちくちく言葉すぎるでショ」
夏目はハァと溜息をつき、手で前髪を上げて額を顕にした。そこへAが遠慮なくデコピンを食らわせ、「ホホホホホ」と嬉しそうに笑うのである。
「トラウマになるレベルの痛さダ」
「大袈裟言うんじゃないよ」
手ぐしで前髪を整えようとした夏目は───、ふとAの頭に目をやり、彼女が付けていた前髪ピン(サンリオのキャラクターの顔付)を取ると何事も無かったかのようにそれを自分に付けた。今日は外部との仕事がないので、前髪に癖がついても良い日である。髪には拘りを持っているが、夏場は特にチラチラと落ちてくる前髪は邪魔でしかない。
ピンを取られたAも何か言うわけでもなく、「アタシより似合ってんじゃないよ」とつっこんで終わりである。
これが日常。これが二人の生活で、特になんてことない日常の一コマである。
「いや仲良すぎるよね？ オレが過敏すぎるだけなのかな」
「そんなことないよ明星くん。みんな思ってるからね」
「……だよね？」
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作者名：アボカドサラダ | 作成日時：2023年8月18日 21時
