貴方に ページ5
もうダメだ。
彼は私を必要としてくれている。
私が生きている理由なんてないのだから、いてもいなくても私にとっては同じなのに。
何かがおかしい。
私は何なんだ?
「どうした?」
彼は灰色の瞳を揺らし、私の肩を揺する。
温かい手だった。
いつか、そう、触れたときと同じように。
「貴方は、私が大切だと言った・・・・・・でも、私は・・・・・・生きていけない」
「・・・・・・君が死んだら、俺も・・・・・・」
ああ、私の恐れていたことだ。
私が死んでしまったら彼も死ぬと言い出している・・・・・・。
私はもう死んでいて、きっとこれ以上彼と関わってはいけなかったのだ。
「それ以上、言わないで・・・・・・その代わりに、ネックレスが欲しい。灰色の、ネックレスが」
彼は口をつぐんでいたが、やがて「分かった」とだけ呟き、部屋を出た。
さて、どうしようか。
私だけの部屋を見渡して、考える。
彼が助かる方法。
それは、私がいなくなること。
そして、彼の記憶から私を消すこと。
どうすれば、出来るだろうか・・・・・・。
私を生きる理由にしてくれた人。
私の大切な人。
原因は、私があの時この部屋にいたことだ。
――私がこの部屋から出ればいい?
考えてもみなかった。
そうだ。
きっとそうすれば彼は・・・・・・。
アンティークなドアに手をかけ、そっと開けようとする。
しかし、そのドアが開くことはなかった。
「どうした?」
耳障りな幻聴が聞こえてくる。
「・・・・・・君が死んだら俺も・・・・・・」
「死ぬんでしょう?」
「正解」
目のあたりが熱くなって、気がつけばボロボロと涙をこぼしていた。
「ごめんなさい・・・・・・私は、君が尽くせるような相手じゃない・・・・・・」
何故か持っていた小型のナイフを取り出し、首元に突きつける。
「私は、おかしいから・・・・・・」
中を漂うようなふわふわした感覚に身を任せて、私はそのまま目をつむった。
――おやすみなさい。
彼女は、首元を赤く染めている。
午後の昼寝をする時のように、目を閉じた彼女は息を止めた。
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作者名:キオンkionn/不服の狼 | 作成日時:2019年5月23日 20時