月は綺麗だけれど、遠いよ ページ11
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拝啓、如何お過ごしですか。私は努めて元気にやっています。
先週の女性誌をご覧になられたでしょうか。貴方様も立派に成長なされて、私も嬉しゅう御座います。様々な言い方が入り乱れておりますが、何分学がありませんので、目を瞑って頂けると幸いで御座います。
貴方様と別れて、もう何年になりましょう。十年一寸、いえ、もっとやもしれません。あの頃はお互いまだ乳臭い子供でしたね。
私も貴方も兎に角何か秀でるものを、何か一芸でもと切磋琢磨し、悴んだ手を温め合いましたのを覚えていらっしゃるでしょうか。
これはあの日の、貴方の努力の結晶だと私は知っております。周りの方は才能だと
矢張り貴方も嫌がるでしょうか。昔の泥臭い物語など、物語として成立しないのでしょうか。
私は、あの日のことこそ物語にするべきだと思います。貴方と私と、そして大人達の物語。夢物語だと笑われるでしょうか、三流のイタチ芝居だと叩かれるでしょうか。
いえ、私は、あれこそが本当の物語だと信じて疑いません。夢物語でもいいじゃないですか、イタチのどこが悪いのですか、あれを、本にするべきです。
貴方のその才能を使って、世に公表してくださいませ。
さすれば私は、もう貴方との文通は止めます。きっときっと、止めてみせます。約束は、破りません。
だって貴方はもう、昔の貴方ではないのだから。
月は確かに綺麗だけれど、遠いのですよ。
敬具。
【月は綺麗だけれど、遠いよ＝貴方を愛しているけれど、もう手が届かないよ】
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