09 ページ9
「どうしてここに…?」
気になった疑問を彩希は隣に並び立った彼女に問いかけた。雨宿りしている雨除けにはボツボツと強く雨が当たり、大きな音を鳴らしていた。
「どうしてって、"凛太郎"のことが気になって…」
「"凛太郎"って、この子のこと?」
彩希は抱きかかえる子猫を見下ろした。子猫は目の前に広がる一面の雨模様をクリッとした目で興味深そうに見ながら、ミーと鳴いていた。
「村山さんも"凛太郎"のこと知ってたんだ」
「出逢ったのはついこの前ですけど。ていうか、この子メスですよ…?」
「え…!?」
なんとなくの印象で名前を付け、我ながらいい名前だと奈々は思い込んでいたが、まさか性別が違っていたとは思いもしなかったため、大きめの思わず驚きの声が飛び出た。
「ちゃんと見たら分かると思いますけど…」
「いや、なんとなくで付けちゃったから…。そっか…、女の子だったんだ…」
恥ずかしそうに俯く彼女の横顔を見て、彩希は思わずフフッと笑みを溢した。するとそれを見た奈々は少し驚いた表情を見せた。
「笑うんだ…」
「えっ?」
「いや、村山さんが笑ったとこなんて見たことなかったから。そういう風に笑うんだなぁって、ちょっと意外に思っただけ」
「なんですか、それ。私だって笑いますよ」
「ゴメンゴメン。でも、意外と可愛かったから」
"可愛い"などと、今まで誰かに言われたことが一度もなかった。そのため彩希はその言葉に耐性がなく、鳩が豆鉄砲を食らったかのように、目を丸めた。
「か、からかわないでください…!」
「なんで怒るのよ…」
ただ褒めただけなのに相手の意外な反応に、奈々は戸惑いを隠せなかった。そんな二人に流れる静寂を打ち消すかのように、雨はさらに強くなり、雨除けにぶつかる音が大きさを増していった。
11人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:神楽リュウ | 作成日時:2019年10月17日 7時