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8話 ページ8

※妓夫太郎視点



「くそ、やっぱり使えねぇ」

鬼の力はどうやっても使えなかった。あの頃の何も出来ない自分になったような惨めな気持ち。
俺が使えないんだから梅だって使えないはずだ。今あいつを守れるのは俺しかいない。

「お兄ちゃん?」

何考えてない脳天気な目がこちらをみる。お前はいいよなぁ。何も考えずあの女を信用しきれて。疑いもしないからお前は。

「顔怖いよ、お兄ちゃん」

今は情報が足りない。この世界についても、あの女についても。生殺与奪はあの女が握っている。
梅の綺麗な見た目を利用するかもしれない。俺に汚い仕事を任せるかもしれない。あいつは俺らに利用価値があるか品定めしているだけかもしれない。
今捨てられる訳にはいかない。いつか俺達だけで生きていけるようにあいつから情報を得なければ。

「梅、あの女を信用するな」
「え?」
「俺たちはいつでも奪われてきたんだ。今回だってそうだ。あいつは優しい顔をして利用するかもしれない」

梅の目が揺れる。そうだよなぁ、お前は信用していたよな。湯浴みさせてもらって、ご飯をもらえて。そこまでしてくれるやついなかったもんなぁ。

「で、でもあんな弱そうなやつ、なにもできないわよ」
「梅」

いつでもどうにか出来ると思って、お前は殺されただろ。雪の中燃えていくお前はいつだって俺の中にいる。俺から奪っていく奴らの顔はいつだって近くにある。
あいつがそうじゃないとどうして言い切れる。
あの日、首を切られたあの日
俺たちはたしかに地獄に向かった。炎の中を歩いた。
そして気づけばあの女に拾われていた。
だとしたらここは地獄だ。

「分かった」
「……お前はいい子だなぁ」

綺麗になった髪を撫でる。香油をつけた不快な手触りはなく、さらりとした髪になった。俺の顔の痣も無くなっていた。

「お兄ちゃん、私たちあの時死んだんだよね」
「そうだなぁ」
「ここって地獄なのかな」

俺は地獄だと思う。俺達は天国にいけるようなことをしていない。人を殺して、喰って、強くなっていくことに身を任せた。あの時鬼殺隊が来なければもっと殺していたし、それに後悔も何も無かった。唯一の救いは俺たちが離れずに一緒にいれることだ。

「ごめんね、おにいちゃん。私が上手く立ち回れなかったから」
「お前は馬鹿だからなぁ。俺が考えてやればよかったなぁ」

梅が俺の腕に抱きつく。外の日は少しずつ落ちてきた。
心の中は酷く冷えていた。

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作者名:めろん | 作成日時:2024年3月19日 3時

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