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「一度も逸らさずに、ずっと観てたよ」
こたくんの勇姿、そう付け加えて、葵さんは静かに車を走らせた。そんな彼女の横顔を、思わず見つめてしまう。
はらはらどきどきして試合が観れないの、そう苦笑いをしていた昔。試合を観たいなんて、絶対言わないひとだった。そんな彼女が、強く優しい眼差しで言う。
こたくんが頑張ってるのに、私が目を逸らしてはだめって思ったの。私はこれからも、…こたくんのすぐ傍にいたいから。
そう、呟いた声は、消えてしまいそうだった。思わず泣きそうになってしまって、誤魔化すように反対を向く。ネオンが、目に染みて痛い。
「知らないひとみたいだった」
「…俺が?」
「うん。…私が知ってるこたくんは、人見知りで優しくて、戸惑いながら寄り添ってくれる、かわいいひとなの」
「…」
「だけど…グラウンドに立つこたくんは目が違くて、…うまく言えないなあ、」
その後は沈黙だった。マンションに到着して、玄関に入るまで、大した言葉はなかった。
ただ、玄関の扉が閉じた瞬間、力任せに彼女を抱きしめていた。驚いた表情をした彼女はすぐに小さく笑って、背中に手を回してくれる。
「こたくん、おめでと、ほんとに」
「……」
「こたくんの背中、広くて、手が回らないよ」
「…葵さ、」
「この背中がね、すっごく逞しかった。きれいだったよ。…野球を頑張ってくれてありがとう」
「…あかん、泣いてまう」
「ふふ、いいじゃない、涙も」
「葵さんの前では絶対いやや」
「強がり」
「これでも俺、彼氏やから」
「…うん、すっごくかわいくて、かっこいい彼氏くんで、私には本当に勿体ないよ」
「……その言葉、そのまま返すわ」
「え?」
「結果でえへんときは優しくついてきてくれて、不調のときはそっと傍におってくれて。苦労ばかりかけてるはずやのに、弱音も文句も言わんし、」
「こたく、」
「…葵さんおらんかったら、今の俺はないよ」
「……っ」
ほんまにありがとう、
そう言う頃には、彼女の涙腺は壊れていた。その小さな両手が、一生懸命力を込めて、俺を抱きしめる。それが愛しくて、潰れちゃうんじゃないかってくらい、葵さんを強く抱きしめた。
これからもずっとよろしく、そう囁くと。涙を溜めた彼女が優しく微笑むから、思わず俺も泣きそうになって、誤魔化すようにキスをした。
_fin
優勝おめでとうございます*熱が冷めなくて書いてしまいました。
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aoi(プロフ) - Ey3467さん» はじめまして*こちらこそありがとうございます!とても励みになります^^ (2021年6月1日 12時) (レス) id: 4b9a3afcbe (このIDを非表示/違反報告)
Ey3467(プロフ) - はじめまして!aoiさんのお話ほんとに大好きなので更新していただけてほんとに嬉しいです! (2021年5月31日 12時) (レス) id: 8bada13383 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - よせさん» コメントありがたいです、うれしいです! (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - り子さん» うれしいお言葉ありがとうございます*(頂いたコメントですみません、り子さまのおはなし、私もだいすきです…!) (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みやさん» ありがとうございます、嬉しいです* (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年4月2日 23時