群青 ページ21
＊橙 のふたり
＿
" …試合、見に行ってもいいかな？ "
勝てば優勝、という試合。葵さんが初めて、試合を見に行きたいと言った。驚いて固まった俺に、何を思ったのか、やっぱりやめておこうかな、と慌てた彼女が、横浜で顔をくしゃくしゃにしていた。
歓喜の輪、仲間の笑顔、きれいな涙、轟く声援。
仲間と喜びを爆発させながら、涙が止まらなくて。ふと、葵さんがいるレフトスタンドを見る。ぼやけた視界には、立ち上がって歓声をくれるファンの隙間から、座って俯いて顔を隠している彼女がいた。ああ、泣いてる。
ゆっくり顔を上げた葵さんと、ぱちり、目が合う。それに気付いて、彼女は顔を歪ませた。そんなに泣かないで、俺まで涙が止まらなくなる。そう思いながら、小さく手を挙げた。葵さんは、何度も頷いていた。
優勝したものしか得られない、最高のひとときはあっという間に過ぎ、各々解散となった。明日も試合だし、夜もかなり遅い。葵さんは寝てしまったかな、なんて考えながら、一応、帰宅することを連絡しようとした。すると、すでに彼女が一言。
" お疲れさま。近くで待ってるよ "
｢…もしもし？｣
｢葵さん？｣
｢こたくん、お疲れさま｣
｢…うん。疲れた｣
｢…うん。本当にお疲れさま｣
｢ドーム近くおるん？｣
｢うん。車で来たから…、待ってようかなって｣
｢だいぶ待たせとるやん、ごめん｣
声が、震えた。日常の会話なのに、なんだか別のものみたいで、不思議な感覚だった。関係者駐車場に来るように伝えて待っていると、見慣れた小さな車が見えた。
小さな音で流れる、ゆっくりとした音楽。さっきまでの興奮と、真逆の空間に来たような感じがして、くらっとしてしまった。葵さんを見ると、たまにこういう気持ちになる。緊張から解き放たれたように落ち着けて、しっくりきて、少し目の奥がつんとなって、地に足が着いた感触がした。
｢こたくん、｣
｢……ん｣
｢おめでとう、こたくん｣
｢…あざす｣
｢…照れてるね、こたくん｣
｢ちゃうよ、顔赤いの酒のせいやから｣
｢…うん、そうだね、そうだったね｣
｢……観た？｣
｢え？｣
｢…俺が投げてるとこ、球場で観るの初めてやったんとちゃう？｣
｢…うん、そうだった｣
｢…ちゃんと、観れた？｣
はらはらして目を瞑ってしまったんじゃないか、そう思った。
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aoi(プロフ) - Ey3467さん» はじめまして＊こちらこそありがとうございます！とても励みになります＾＾ (2021年6月1日 12時) (
レス) id: 4b9a3afcbe (このIDを非表示/違反報告)
Ey3467(プロフ) - はじめまして！aoiさんのお話ほんとに大好きなので更新していただけてほんとに嬉しいです！ (2021年5月31日 12時) (レス) id: 8bada13383 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - よせさん» コメントありがたいです、うれしいです！ (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - り子さん» うれしいお言葉ありがとうございます＊(頂いたコメントですみません、り子さまのおはなし、私もだいすきです…！) (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みやさん» ありがとうございます、嬉しいです＊ (2019年8月4日 11時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：aoi | 作成日時：2019年4月2日 23時
