気が付いたら3【佐野万次郎】

数年後 ページ19

「はぁ〜〜〜っ、可愛いねぇ〜」


すやすやと目の前でようやく眠った小さな存在に、思わず感嘆のため息をこぼす。


「ありがとう」と小さな声で返事するエマちゃんが、そっと手元の赤ちゃんをベビーベッドに下ろした。


大きくて可愛い目はエマちゃん似で、笑った顔はドラケンくんにそっくりだった。


「思い切って家たてちゃうなんて、ドラケンくんエマちゃんたちの為に凄く頑張ってるね」

「えへへ、そうなんだよね〜」と照れ臭そうなエマちゃん。


隣の部屋からは、万次郎やドラケンくん、三ツ谷くん、場地くん、一虎くん、武道くんなんかの笑い声が聞こえてくる。


大方、また昔の話で盛り上がっているんだろう。


「Aも、もうすぐ結婚式でしょ。準備、進んでる？」

エマちゃんがソワソワした表情で聞いてくるから、私もソワソワする。


「あー、うん。…あまり時間ないけど、三ツ谷くんがドレスとか仕立ててくれるって」

「へぇ〜」

「万次郎が経営してるお店の新店舗のオープニングも迫っててバタバタしてるけど、何とかなりそうだよ」

「ったく、なんで結婚するってときにわざわざ忙しくするかなー！マイキーは！！」


私の代わりにプンプン怒るエマちゃん。

勿論、寝かし付けたばかりの赤ちゃんが起きないように小声だけれど。


「よく分かんないけど、このタイミング逃したらライバル店に負けちゃうみたい。ビジネスの話は難しくてよく分からないけど、万次郎はいつも結果残して来たから………」

苦笑いすると、エマちゃんがため息を付く。


「だからって、人生の節目ってときにやらなくてもよくない？…Aもよく我慢してるよね〜」

「振り回されるのには、随分慣れたよ」


何てったって、中学から付き合っているしね。


「ぎゃはははっ！」と隣の部屋の声が大きくなる。

それも主に万次郎の笑い声が響いてる。


うーん、久しぶりにみんなで集まって楽しいのはわかるけれど………


「そろそろ注意して来た方が良さそうだね」


私がそう言って立ち上がったとき、ベビーベッドの上から「ふぇっ…」とぐずる声がした。

「あ…」と、隣のエマちゃんと顔を見合わせた次の瞬間、とうとう泣き出してしまった。


「マイキー…っ！」と、怒りを少し露にしたあと、エマちゃんが赤ちゃんを抱き抱える。

「ごめんね〜煩かったね〜よしよし」と抱き上げて落ち着かせたあと、彼女は赤ちゃんを再びベッドに寝かせて、それから動き出した。

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