水神様のお気に入り【原神】

道標【過去編 8】 ページ44

諭す様な、宥める様な…とても暖かく優しい声。初めて会った時と同じ…手を差し伸べてくれた時と同じその声に導かれるように瞼をあげれば、まだあどけなさの残る少女の顔が目に入る


「ほら、何も怖くは無いだろう。僕はキミを傷付けたりしない…この国の民達はキミを苦しめたりしないよ」


『……』


「あの時も思ったけれどキミは珍しい瞳をしているね。だけどとても綺麗だ。隠すなんて勿体ないよ……それに相手の目をみて話さないと、自分の気持ちは伝わらないんだ」



これでやっと話が出来る、そう微笑んだ少女の姿は……俺の知る神とは程遠いものだった。胸の内に募っていた筈の恨み辛みが、彼女の言葉にかき消される。彼女に向けて、同じ憎しみを抱く事が出来ない


「この世界は確かに辛い事が多いかもしれない。だけどそれだけじゃないさ……美味しい食べ物だってあるし、綺麗な景色だって沢山ある。色んな命が生まれ、数多の場所で生きている………ねぇ、A君。キミはこの世に一人ぼっちじゃないんだよ。苦しい事も辛い事も、全部1人で抱える必要なんてないんだ」

『……知、ってるよ…そんな事…』


この世界が美しい事も、色んな人が居る事も……全部全部分かってる。優しい人が居る事だって、ここに来て嫌という程に分かった……でも、だから辛いんだ……だから見たくなかったんだよ


『…名前も姿も分からないのに、存在していた事だけは覚えている誰かを……この世界を見る度に思い出すのがとても辛い………記憶が無いのに、知っているのが気持ち悪い……頭の中の色々な記憶がぐちゃぐちゃに混ざって、苦しいんだ…』


暗闇しか見えなければ…闇に沈んでいけば、そんな思いはせずに済む。そこには闇しかないのだから……光が無い方が、落ち着ける時だってあるだろう


『…色んな情報が入り込んで……どうして生きているのか……分からなくなる……死ねない事が、辛くて仕方が無くなる……自分の存在している意味が分からない…』


誰にも言うつもりはなかった言葉…それと共に気付けば涙が溢れ落ちる。どうしたらいいのか分からない、どうすればいいのか分からない…ただ生きるという事が、こんなにも辛い。振り絞る様に言葉を吐き出せば、少女は俺を真っ直ぐと見詰め口を開いた





「なら…僕がキミの生きる理由になってあげるよ。キミが二度と迷わない様に僕が道を照らしてあげる……だからA､キミはこれから僕の傍で、僕の国で、僕と共に生きるんだ」

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