水神様のお気に入り【原神】

好きになればなる程に ページ28

sideヌヴィレット


残っていた業務を片付けていた時唐突に執務室のドアが開いた。何か問題が起きたのか、はたまた急ぎの書類があるのか、そう思い資料から顔を上げれば飛び込んで来たのはフリーナで、彼女は息を切らせて入口に立っていた。水神ともあろう者が寝間着のまま何をと思ったが彼女はドアを閉めると私の傍まで歩み寄り「Aが居ない！」と焦った様に言う


「…Aが？」


チラと時計に目を向ければ時刻は既に深夜を回っている。急な仕事が入ったのでは無いかと言うが、フリーナの表情は今にも泣き出しそうに歪められていた


「ちゃんと傍に居るって言ったのに…！」

「急な用事が入ったのでは」

「こんな時間に何の用事があるっていうんだ！」

「…フリーナ殿、もう夜も遅いので大声を出すのは」

「あっ…ごめん……だけど…」


少しの違和感。私の言葉に素直に謝罪し、不安そうに此方を見上げる彼女に平時の面影は微塵もなかった。何故ここまで不安がっているのか…色々と気になる事はあるが、とりあえず中には誰も入れないようにして彼女をソファに座らせる

「Aの行き先は不明だが失踪した訳ではないだろう。そう不安になる必要はない」

「で、でも……帰って来なかったら…」

「帰って来ないという確信があると？」

「そういう訳じゃ…」

「では大人しく部屋に戻り待っていれば良い。Aは必ず戻る筈だ」


しかし彼女は私が言っても部屋に戻ろうとはしなかった。不安そうな表情はそのままで、辺りを見渡しながらソワソワとしている。何故こうも落ち着きがない…？普段もそうといえばそうなのだが、今のコレはそれとは違う。私が知らないものだ

「…差し支えなければ答えて欲しいのだが」

「あ、うん、なんだい？」

「何をそこまで不安になっている？…AにはAの時間があり、今は勤務時間外の筈だ。こんな時間まで彼はキミの傍に居なければならないのか？」

付き人とはそこまで尽くす必要があるだろうか。何時か言っていたAの言葉も引っ掛かる…。私が問いかければ彼女は静かに膝を抱え一瞬の沈黙の後に口を開いた


「…そうじゃないよ、そんな事ない………だけど…僕はもう彼が傍にいてくれないと不安になって仕方ないんだ……こんな筈じゃなかったのに…もっとAも自由で居られる時間がある筈だったのに……どうしようヌヴィレット…Aを好きになればなるほど…離れる事が不安で堪らなくなるんだ…病気なのかな」


そう言った彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちたのを私は見逃さなかった

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