水神様のお気に入り【原神】

グロシを掲げよ ページ20

sideA


スメールのキャラバン宿駅に居た者から例の旅人がとうとうこの国を訪れるとの情報を得た。其れを聞いたフリーナ様は、どのようにして出迎えようかと早々から頭を悩ませている


「やっぱり一番かっこいい形で出迎えるべきじゃないかな！そしたらその旅人も、かっこいい僕の事を尊敬するに決まっている！Aもそう思わないかい？」


『そうですね』


「そうだろう！？なんて冴えているんだろうか！……それじゃあ早速練習をさせてよ、台本は思い浮かんだんだ！良いかい、Aは僕のちょっと後ろに居るんだよ。旅人が訪れたらこうして…」



嬉々として身振り手振りで話し始めるフリーナ様との練習は数時間にも及んだ。ここまで練習したのだから、バッチリと決められるだろう。その後暫くして旅人がこの地に降り立ったとの情報も入って来た、フリーナ様は部屋の外にいる者に返事を返し、私に手を差し伸べてくる



『参りましょうか』



その素手に手袋を嵌めて差し上げるのが新たに私の仕事となった。彼女の小さな手を取り手袋をはめて笑顔を向ける。すればフリーナ様は満足げに笑い意気揚々と部屋から歩み出た



















………暫く歩き、漸く到着したフリーナ様は旅人を驚かせてやろうと先程まで練習していた通りに話し続けていたが、あらぬことが起きてしまった



「富める者も貧しき者も、グロシ(・・・)を持つ者も持たざる者も、杯を掲げよう！グロシ(・・・)が無い者は、代わりに腕を。」



『………』



高らかに宣言する彼女に民達は腕を掲げる。例の旅人と不思議な生物は此方を見上げているだけだが……気になるのはそこでは無い。その後も何やかんやと話が進み…決闘がどうだとなり、旅人が強気に出ればフリーナ様はとたんに弱腰になったりと相変わらずなスピーチだったが、何とか出迎えは終了した



『……ところでフリーナ様、グロシとはなんですか？』


「あ、あれはっ…グラスって言いたかったんだ！」


『そうでしたか……然し彼処にグラスを持っている者がいる筈がないと最初から分かった事では？あのスピーチも要は腕を掲げろ、という事でしょうに』


「ぅぅ…いっぱい練習したのに……あの旅人がびっくりするように、かっこよくきめたいって言ったじゃないか！」


『その結果がグロシ…』


「ぐぅっ…いつまでも言わなくて良いじゃないか…！」


全て終えて部屋に戻った後に話せば彼女はクッションを抱き締めながら頬を膨らませ拗ねてしまった

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