水神様のお気に入り【原神】

出発の夜 ページ16

それから何日か過ぎ、私はフォンテーヌから璃月へと出立する事となった。何でも件の旅人も璃月に居るらしく、その合流もかねている


『…そろそろ行っても良いでしょうか』


「……むぅ」


民達には内密にとの事で夜中に出立を決めた私だが、先程から小一時間程……この命令を下した筈のフリーナ様に背後から抱き着かれて身動きが取れなくなっていた


『フリーナ様…離して頂かないと私行けません…』


「…もうちょっとだけ良いだろう。もう少しだけだから」


『それは先程から何回も聞きましたよ』



無理矢理振り払えるはずも無くただ時間だけが過ぎていく。小さな手は頑なに私を離そうとせず、私もまた背中に預けられる温もりから離れ難くなっていた。命令された事とはいえど…私とて感情を持ち合わせている人間なのだから


『…これ以上引き止められたら出立出来なくなってしまいそうですよ』


「……」


『私とて、行きたくないという気持ちはあるんですから』



そう言うと腹に回された手がピクリと揺れる。背中に顔を埋める様にしている彼女を見ない様に瞼を下ろし私は言葉を続けた



『行きたくない…けれど貴女の力になれるならと私は命令を承諾致しました。私1人の気持ちよりも、貴女様の気持ちの方が私にとっては大切なのです。貴女の為に行こうというのに……貴女は今更引き止めるのですか？』



返事は無い。けれど、服を掴む手は緩む所か更に強くなっていく。今生の別れでもあるまいに。




『フリーナ様、これ以上私を困らせないでください』




これ以上引き止められてしまっては、本当に行けなくなってしまう。どうか離してくれないだろうか…私は自らこの手を振り払える勇気など無いのだから…



「ごめん、長く引き止めてしまったね。もう大丈夫、気を付けて行くんだよ。キミの帰る場所はこの国だ。僕の横に戻って来ないと絶対に許さない」



少しばかり声を低く言えばフリーナ様は私から離れる。そして何時もの様に堂々とした声で言い私の背中をトンと押した。その弾みで数歩前に歩み、背後を振り向けば帽子で顔を隠すフリーナ様の姿が目に入る



「だから…だから、早く異郷の旅人と一緒にこの国に帰って来るんだ…」



『…』



カタン、と音が鳴る。気付けば身体は動いていて彼女の小さな身体を抱き締めていた。彼女の手から帽子が落ちるのを視界の端に入れながら、けれどそれを取る余裕もなく…ただ強く彼女の事を抱きしめた

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