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ページを捲ろうとしたAの視線が少し上がった。その瞬間、ハッと顔を上げたAさんの目が大きく見開かれた。この顔、前にも見たな。
「やっ、山本くん！？」
思いがけず大きな声が出たのか、Aさんはわっと自分の口を手で抑えた。
「Aさん、お久しぶりです。偶然ですね。」
その驚いた様子が面白くて、声を上げて笑ってしまった。
「え、山本くんなんでここに……ってか、誰とも会わないと思ったからめっちゃ適当な格好してきちゃった…恥ずかしい……」
A さんは、あーあと頭を抱えた。
「あははっ、お休みなんでしょ、Aさん。ラフな格好のA さん、めっちゃ新鮮。いいじゃないですか。」
「よくないよ〜〜もう、すっかり気も抜けてたし、ちゃんとしてくればよかった。」
お休みの日だからか、話し方も表情も、Aさんの素な感じが出ていて面白い。
いつもはもっとしっかりしたお姉さんって感じだったけど、今日のAさんは、同年代の友達と変わらない感じだな、となんとなく距離が縮まった気がした。
「いや、これからオフィスに行くところで。早めに着いたから寄ってみたんですけど、Aさんとは偶然が続きますね。」
「山本くんと会うとき、いっつもびっくりしてる気がするわ…ほんとに。っていうか……」
Aさんは急に真剣な顔して、少し声を潜めた。
「山本くん、こんな駅前で、私なんかに話しかけて…そういうの、良くないんじゃないですか。」
「え、なんで？」
Aさんの言いたいことが良くわからなくて首を傾げる。
知り合いを見かけて、声をかけて、一体何が良くないというのだろう。
「その……山本くん、ほら、有名、でしょ？」
Aさんは、ごめんなさい、今まで知らなくて、と眉尻を下げた。Aさんの今までの感じからして、僕のことを知っている感じはしなかったのだけど、一体いつから知っていたんだ？
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作者名：湊 | 作成日時：2019年11月6日 18時
