夏の夜 ページ29
私の思い描いていた夏祭りは、頭の中よりも随分甘い事ばかり起きる。
「雅人さん、あーん」
「…ん。」
今もまた、鋭い歯が覗きひとくちを攫っていく姿を見つめている。
人混みが苦手な彼に言い出せなかった夏祭りは、感情駄々洩れなおかげで見ぬかれ今日に至る。
オメーが行きてぇならどこでも行くから変に気を回すな、と額を小突かれたセリフは一言一句間違うことなく後世に語り告げられる程ときめいたのは秘密だ。
無言のエスコートも年相応の微笑みも、誰も知らない街で独り占めしている。
かくいう私も、騒がしい所は得意ではない。
複数ある道たちで最も都合のついた階段は思ったより長かったけれど、まるで切り離されたような閑静さに早くも満足感を覚えた。
参拝者用の広場辺りは割と人の出があったが、二人奥へ進んだこの場所はほぼゼロに近しい。
祭りの風景は見えなくなったが、彼がいるだけで私の満足感が衰える事はないし足りない街灯でも不安はない。
食べ終わったものをまとめ次の袋へと手を伸ばす私を見やる、いつもの声。
「まだ食うのかよ」
「甘いの食べたらしょっぱいの食べたくなった」
「フライドポテトの後は?」
「残してたいちごあめ」
「ぶれねぇな」
永遠ループ。と冗談めかす私に緩く笑う雅人さんも、なんだかんだ言って同じかそれ以上の量を食べているのだから中々にはしゃいでいると思う。
寡黙さは普段と変わらないけれど、眺める私を隠し撮りするくらい楽しんでくれているなら私の頬は表情筋を忘れるのも致し方なかった。
ある程度片づけをして、星の瞬く夜空へ視線を移す。
雅人さんの手には私が休憩を願い出たいちごあめが握られていて、中々のギャップに連写せざるを得ない。案の定頬を掴まれたが。
「…三門よりきれい」
「…暗いからな」
街灯が助けるのは二人だけで、自由な空はどこまでも自分が好む星たちを身に着け輝いていた。
聞こえる喧騒はわずかで、それはより一層幻想的な夏の夜を作り上げている。
雅人さんは今、何を考えているのだろうか。
暫く見惚れていた夜空。預けていた体が離れた為か、同じように空を見つめていた瞳が私を捉える。
「…、」
あとひとつになってしまったいちごあめ。受け止めたプラスチックの音が見えない所で届いて、雅人さんの手は私の頬。
受け止める様に瞼を下ろしてすぐ。
いつもより随分甘い唇に熱を分け与えられ、シャツの袖口を掴んだ。
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み(プロフ) - かるぴさん» 最後までお読みくださり、またこんなに心温まるコメまでありがとうございます…!!そう仰っていただけてとても嬉しく、執筆してよかったと救われました💕こちらこそありがとうございました💕🐕🎀 (9月20日 15時) (レス) id: c444dbe51c (このIDを非表示/違反報告)
かるぴ(プロフ) - とても面白かったです…!!ついつい最後は泣いちゃうくらい大好きです……!こんな神みたいな作品生み出してくださってありがとうございます😿😿! (9月15日 8時) (レス) @page48 id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - ペネロッペさん» コメントありがとうございます!!こんなにもお褒め頂けてとても光栄です、こちらこそありがとうございます✨ (2023年3月7日 16時) (レス) id: b66859cee4 (このIDを非表示/違反報告)
ペネロッペ(プロフ) - 完結、おめでとうございます!! とてもとても大好きな小説が完結して嬉しい気持ちとどこか寂しい気持ちがごった返しですが、、、無事、完結という形で終わっていただいた作者様にもう一度、感謝を述べます!ありがとうございました!! (2023年3月6日 15時) (レス) @page48 id: 42dc98278a (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - 亜紫さん» お優しいお言葉ありがとうございます…!!とっても嬉しいです😍他作品も含めお楽しみ頂けます様頑張ります!😊🎁 (2023年2月20日 8時) (レス) id: b66859cee4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:み | 作成日時:2022年1月25日 15時