【WT】影浦雅人に恋した少女は待たずに海路の日和あり 3 【影浦雅人】

バレンタイン ページ3

─ヒカリちゃん以外の女の子とか、ボーダーでお世話になってる方以外に、


突然送られてきたメッセージ。既読をつけたまま脈絡もない短文の意味を探りながら眺めていると、暫くたってまた画面上にメッセージが現れる。



─受け取ってたら、妬きますので。



少し炭酸の抜けた水を一口含んだ最中、眉を寄せた。
何を、と返信を打つ前に、キャップを絞めるべくスマホから手を離す。


再び手に取ったスマホは、また彼女のメッセージを受信した。



─チョコ。




そこでようやく、画面をスワイプして今日が２月１３日であることを理解するのである。





…





靴箱、机、ロッカー諸々。

その場に行くたびに何となく浮足立ってる奴らを横目に教室へと赴く。昨日のやり取りを受け、貰うも何も俺にバレンタインのチョコレートを持ってくる奴なんざいる訳がない。と手身近な了承の返事を返してから、半日も立っていなかった。


ホームルームが始まるまで、なんとなく俺の席付近に穂刈や村上、今ほど登校してきた水上が集まり特に中身のない会話が始まる。



「バレンタインだな、今日は」


「誰かにもらったん？」


「加賀美がもってきてくれるそうだ、隊室に。」




そういや、と村上が支部での話を始め、頬杖をつきたまに相槌を打っていると、目の前に座る水上がちらりと俺を一瞥した。



「カゲは可愛い彼女ちゃん待ちなん？」



何とも言えない緩む口角に眉根を寄せつつ、放課後。とだけ零す。
教室に誰もいなくなったら教えてください、と一々気遣ってくる彼女は相変わらずで、素直にあやかるくらいには俺自身もすべてを委ねていた。


特に変わりなく終わった一日。からりとドアが開く音にうつぶせていた体を起こすと、半身こちらへ覗かせたAは微笑んだ。



「お疲れ様です、雅人さん。」


「…おう。」




ドアに両手を添えこちらを覗く様はなんとなくハムスターの様な小動物を思い起こす。

ほわりと髪を揺らし覗き込んでいた体を戻した彼女は、後ろ手にドアを閉めこちらへ駆け寄ってきた。肩にかけた鞄を握る小さな手。プリーツの効いたスカートを靡かせ走り寄ってくるご機嫌なA。


手の甲が隠れるほどのパーカーを上から着ているヤンキーガールはセーラー服のセの字も感じさせずに俺の前の椅子を引き、向きを変え真正面に座った。
鞄を膝に抱いてファスナーをあける指がちまっとしており、なんとなく眺めてしまう。

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