21話 ページ22
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「__以上が、ざっくりした闇の巫女についての話だ」
杖を振ってどこからか取り出した『光の巫女と闇の巫女』というタイトルが書かれた絵本をパタンと閉じた青年に、「はぁ……」と返すしかできなかった。
いやだって、普通そうでしょ? いきなり異世界の人間なら誰でも知っているらしい有名な絵本を読み聞かせされて、そしてお前がその絵本の登場人物の話に出てきている奴だ、なんて言われても。
その言葉が伝わったのか、「まぁこれは、子供用にかなり改変されているが、全体のあらすじとしては正しいんだ」と言って、
「この話は、史実を元に作られている」
「史実……ですか」
「あぁ。確かに昔、光の巫女のモデルになったと言われている高名な預言者は存在していたし、同時に世界一の悪女と言われる闇の魔術をつかう魔女も存在していた。そして予言者は、未来で光の力と闇の力を持つ者が表れるという預言をした。その当時は災害が頻発している時代でもあったから、色々脚色されてこういう話になった__というのが歴史家たちの見解だ」
「はぁ。えっとそれで、どうして私がその、闇の巫女とやらということになるんですか?」
未だに話の繋がりが読めずに聞けば、「予言では、光と闇の巫女は異世界から現れるとされていた」と彼が答える。
「そして、巫女が死んでから今年で丁度500年だ。そんな時に異世界から来たなら、そう思われてもおかしくない。それに、もう1人の方は自分のことを光の巫女って言ったんだろ?」
「うぐ、」
それを言われてしまえば、確かに、と言わざるを得ない。けど、だからっていって配送ですかともならない。
「で、でも、私はなんてことのないごくごく普通の異世界人ですよ? 大学のキャンバスで石を投げたら似たような人に当たるような」
「まぁ……お前が多分何もわかってないのはわかる。けど……」
「けど?」
「素質はあると思う。……自覚していないだけで」
「はい? 素質? ……闇の巫女の?」
こくりと頷いた彼に、再び処理能力の限界を超えそうな頭で「どうして、ですか?」と理由を尋ねれば、彼はふとソファの上を見た。
「起きてるときのあいつと二人きりになってもお前は死ななかった」
「え、あぁ……それは、あの二人組にも言われましたけど……あの方は、一体何者なんですか?」
「あいつは……」
言いかけたところで、彼の表情が少し悲しげなものになった。紫の瞳が、ゆらりと揺れる。出そうとした言葉を飲み込んで、やがて続けた。
「……吸血鬼の人間もどきだ」
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作者名:ホロスコープ | 作成日時:2022年5月4日 16時