悪童が悪童じゃない話

バァカ*23 ページ23

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Aは、俺を待っていたかのように玄関の前で蹲っていた。
その姿にズキリと心臓が痛む。


「A」



名前を呼ぶと、Aはゆっくりと顔を上げた。
その顔はいつもの比じゃなく涙でぬれていて、頬には涙の痕までついていて、俺は思い知らされた。

どれだけ鳩羽が最低だろうが、Aのことを好きじゃなかろうが、俺を不幸にするために付き合っただろうが、Aは鳩羽の事を好きなんだ。

――――俺じゃ、ダメなんだ。


ふはっ、鳩羽は成功してたじゃねえか。
俺は今不幸のどん底にいる。現実を突きつけられて、俺の体温が急激に冷えていっている。

Aはまた俯き、か細い声で言った。



「……やり直したい」


周りの音が全て聞こえなくなる。
俺とA以外の景色も、全て見えなくなる。

そこは異空間だった。俺にとって。
原を放っておいてまで、Aのところへ来たのに結局はこれを見せつけられるのか。
俺はまだ、鳩羽の呪縛に囚われているのか？
……いや、違う。
Aを好きだという呪縛に囚われているんだ。

その呪縛を解く方法を、俺はもう知っている。


「……好きだ」


気付いたら口に出していた。
出しちゃいけない言葉を、俺は無意識のうちに言っていたらしい。


「え？」


――――この言葉も、届かないのか。

聞き返したAになんでもないと返し、俺はAの家を後にする。
……あと少し、あと少しだけAに近づけていたら、俺の言葉は届いていたのか？

自分がみじめで、少し泣きそうになった。

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