きっともう、逃げられない 〔HQ〕

43話 ページ47

及川「…あ、あった！」


なんとなく持ち上げた、庭の隅の植木鉢。その下に、トランプが隠されてあった。





…及川の、命を削る秒針は止まった。




トランプを手に取った瞬間、及川は腰が抜けて座り込んだ。




及川「……はは、ダメだな、俺」




冷たくて震える、自分の指をそっと包み込む。心臓の音が、脳みそに直接響き渡っているようだった。










一番最初に罪を犯したのは自分なのに。生き残るためなら何をしてもいいと思い込んだのに。







でも、心の奥では怖がっていたんだ。








……俺が赤葦くんを促したのは、共犯者を作って自分自身を安心させるため？



俺って、そんな弱い奴だっけ。



岩ちゃんと遊んで、まっつんとまっきーとふざけて、国見ちゃん達とバレーして、飛雄を馬鹿にして……















あれ、なんで俺は生きてるの？？







及川の手から、ぽろりとカードが落ちた。でも、及川は動こうとしない。



もう、何もわからなくなってしまった。及川は、もう限界だったのだ。












岩泉「及川ーー！！どこだー！！」




そんな時だった。ふと、岩泉の声がした。その声は、及川を探して歩き回っていた。



及川「いわ、ちゃん」







及川が、動き出す。手は、ポケットの中に。






カッターを、取り出した。







涙をこぼしながら、自分の手首に近づけた。







岩泉「あ、おいか、わ！？」



その瞬間、岩泉の安堵の声は焦燥に変わった。走ってくる音がする。




すっと、刃を引こうとした時。バシッと、カッターが振り払われた。石に当たって、跳ね返った音がする。







岩泉「このボケが！！何してんだ！！！」


怒声が、耳に響いた。及川の瞳には、苦痛の表情に歪む岩泉が映っていた。





岩泉「お前まで、いなくなるなよ……」






及川「…うん、うん、ごめんね、岩ちゃん…」







静寂に、二つの声が響いた。そっと、瞼を伏せる。






岩泉「……行くぞ、トランプ、あるだろ？」


及川「…うん！」




二人は立ち上がる。走っていくその背中は、かつて幼い頃の二人のようだった。















……本当は、あの時の及川は、死ぬつもりじゃなかった。本当の及川は、手首を切るなんて、怖くて怖くて出来やしない。



なんせ、死にたくなかったからだ。







“じゃあ、なぜカッターを……？”





そう思うかもしれない。




理由は、本当に単純で簡単。










岩泉に止められることで、自分の存在意義を知るためだったのだ。





まだ、及川の心は壊れ続けている。

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