曖昧なモルヒネ

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金曜日の夜だけに、今夜はなかなか店が混んでいた。

彼はすぐに私に気付くと、カウンターの端の席を用意してくれる。

「忙しそうだね
今日もワンオペ？」

「オーナーの体調が、あんまよくなくて」

何も注文してないのに、彼はいつものカクテルを出してくれて、そのまま慌しく仕事に戻ってしまった。

あーあ、愚痴でも聞いてもらおうと思ってたのに。

…今夜は早めに引き上げるか。

そんなことを考えてたら、隣の席に知らない男の人が座ってきた。

どうやらテーブル席から移ってきたらしきその男は、執拗に私を誘いはじめる。

私がやんわり拒否すると、

「バーに女の子が1人で来るとか、誘って欲しくて来てんじゃないの？」

とかって、逆ギレしてくる始末。

「すいません、彼女は俺の連れなんで」

だけど、カウンター越しに彼がサラッと声をかけたことによって、男はあっさり元の席に戻って行った。

「今日は閉店までいるだろ？」

そう言い残すと彼は、また仕事に戻っていく。

いや…、私は閉店までいるなんて一言も言ってないけど。








深夜に近付くにつれ客は少しずつ減っていき、０時を回る頃には私だけになってしまった。

明らかに疲れた顔をした彼が１人で片付けをしているから、私も手伝うことにしたんだけど。

私が食器を洗ってる横で、彼はグラスを綺麗に拭きあげながら、

「なんかあった？」

こちらを見もせずにそんなことを聞いてくる。

「…あった」

「だろうね
あんたは何かあった時しか、店に来ないから」







「しばらく来なかったってことは、いいことでもあった？」

もう限界に来ていた私は、今までのことを総ざらい話して聞かせたけど、

「よかったじゃん」

彼は、あっさりとそんなことを言う。

「よくない
元彼なんか、一日に何度もLINEしてくるんだよ
もうストーカーじゃん」

「スマホ貸して」

彼は私からスマホを受け取ると、LINEの元彼のメッセージをしばらく読んでから、

「ふーん」

とか言いながら、あっさりブロックボタンを押して、そのまま連絡先を削除してしまった。

遠慮なしにトークルームを次々と覗く彼は、

「これも消しとくね」

そう言って、営業マンと大学生もブロックした上で削除してしまった。

「待ってよ
大学生はいいとしても、営業マンは仕事で会う人だから困るんだけど」

そう抗議してるのに、それをサラッとスルーした彼は、

「これから家に行っていい？」

とか、真顔で聞いてきた。

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