花朝月夕

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『Aちゃんって、やっぱすごいわ…』

しばらくして彼は、感嘆したように言葉を発した。

『なんか今、すげー感動したんだけど
花の老化とかってすごくね？
そんなこと考えたこともなかった』

…って、あれ？

引いてたんじゃないの？

なんかやたらと、感動してるっぽいけど。

『俺、そういうの好きかも
好きなものに夢中になってる子、みたいな
Aちゃんのことが気になるのは、そういうことなんだろうと思う』

…だんだん、慣れてきたかも。

彼のこういう言い方にも。

てか、北山くんってこんな感じだったっけ？

私の知ってる北山くんは、本音なんか簡単にみせてくれないようなタイプなのに。

…ってことは、これは全部リップサービスってことで理解してＯＫなのかな。








「今日の北山さんって、よくしゃべりますね」

リップサービスをスルーするように、さらりと話題を変えてあげた。

そうしたら彼は、

『雨の日って、なんか落ちない？気分が
だから…、ちょっと今日はしゃべりすぎたかも』

ちょっとモゴモゴと聞き取れないくらいの声でそう話した。

…なんか、わかったかも。

北山さんが拗ねたり本音を話す時って、こんな話し方になるんだ。

…ということは、今のは本音？

可愛すぎるんですけど！！









『それより、金曜日
今日くらいの時間に行くわ』

彼はまたボソボソとそう告げては、車道越しにチラリとこちらを見てくるのがわかった。

「本気？」

『本気
だからAちゃんも来てよ
あの時間に、あそこで』

これは…、信用していい約束なんだろうか。

通りの向こうでは、やっぱり彼はこちらを見ていて、

何故かそのまま立ち止まってしまった。

『金曜日、満開なんじゃなかった？』

彼はまだ、立ち止まったままこちらを見てるから、私も足を止める。

「満開だけど、他にも見に来る人がいるかもしれないし」

『だから、今日くらいの時間で
あの桜、街灯に照らされて綺麗だったから』

なのに私は、可愛くないことを言ってしまう。

「一人で見にくればよくない？」

言ったあとで、しまった！と思ったけど、一度口に出してしまった言葉はもう戻せなくて。

なのに、

『Aちゃんと見たいんだけど
隣で説明してよ、桜の話』

好奇心に満ちた声でそう返されて、拍子抜けした。

だけど彼はその後、こうつけ加える。

『警戒しなくていいから
別に深い意味はないんだし』

まるで浮かれかけてる私に、釘でも指すみたいに。

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