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「本当は、菜乃花にAを見せたくなかった。」

先生は寂しげにそう呟いて、そのまま瞼を閉じてしまう。

「実はクリスマスのちょっと前、菜乃花がうちのマンションの前に立ってるのを見ちゃったんだよね。
Aをこの部屋に閉じ込めたのは、菜乃花に会わせたくなかったから。」

「…どういうこと?」

「あいつのことだから、すぐにAの存在を突き止めるんだろうなって思って。
だから俺の目の届く所に、Aを置いておきたくて。」

「ひどくない?
何で教えてくれなかったの?菜乃花さんのこと。」

言ってくれれば、私だって注意して行動できたのに。

「ただでさえセンター試験前の大事な時期に、そんなことでAの集中を切らしたくなかったから。
優のことでも、Aに迷惑かけちゃったし。」

「秘密にされるのは嫌だ。
私だけ置いてきぼりにされてる気分になるから。」

子どもの頃、私はいつも家族の中で蚊帳の外だった。

家族の大事な話もいつも決定した後で告げられて、私はそれに黙って従うことしかできなかったから。

だから先生にもそういうことされちゃうと、寂しくて仕方ないんだけど。

「…ごめん。
今度からはちゃんと話す。
ただ、今のAは大事な時期だから、余計な心配をかけたくなかっただけ。」

なんだろ…、今日の先生は可愛らしく見える。

そっか、今日の先生は弱ってるんだ。

それに、こんなに疲れ切ってる先生を見るのは、初めてかもしれない。









いつも私が辛い時は、先生はバカみたいに甘やかしてくれるから。

今夜は私が先生を甘やかしてあげよう。

私の腰に腕を回して、ぐったりとソファーにもたれかかってる先生を、

その頭ごと、強引に抱き寄せた。

先生は驚いてたけど、無視していつものようにその膝に乗ってやる。

「今日は、私が裕太を甘やかせてあげる。」

頭ごと包み込むみたいに抱きかかえれば、先生は簡単に私に体を預けてきた。

「…十年早いんですけど。」

とか、可愛くないことを言いながらも、先生の体は素直だ。

やんわりと私の腰に両腕を回しては、私の肩に頭を預けてくる。

「Aに甘やかしてもらうとか…俺、終わっちゃってんじゃん。」

なんて、くすくす笑いながら。

「今日だけだよ。」

その柔らかな髪を撫でてあげれば、

「生意気。」

なんて返事が返ってくる。

だけどその声はとてもうれしそうで、胸がふわふわと暖かくなった。

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わかめ(プロフ) - コメントありがとうございました!返信が二か月も遅くなりまして、大変申し訳ないですー(*'ω'*)これからはコンスタントにそこそこ更新できそうです。どうぞよろしくお願いします(*'ω'*) (2018年3月8日 22時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - わかめさん» ずっと更新待ってました!!!今から読みます!!! (2018年1月7日 8時) (レス) id: 1599802159 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - ゆきさん» いつもいつも、更新遅めで申し訳ないです(/ω\)引き続き読んでいただけたらうれしいです(*'ω'*) (2018年1月7日 1時) (レス) id: 8af18b42f1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - わああああ〜〜〜ありがとうございます (2018年1月2日 22時) (レス) id: 1599802159 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - ゆきさん» お待たせいたしました。先程更新いたしました。ご期待に副えるかどうか心配ですがwwwこれからもどうぞよろしくお願いしますm(__)m (2018年1月2日 1時) (レス) id: 8af18b42f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わかめ | 作成日時:2017年12月29日 22時

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