頼み ページ3
遊「ちょっと!そこどいてくれない!?」
どんっっ
「…っ」
遊郭での仕事終わり、
片付けをしていると
毎朝、恒例のいびりが始まった。
遊「ちょっと人気があるからって、何?
後入りの癖にほんっと生意気」
「……すみません」
遊「ねえ、またAに
客取られたんでしょ?」
遊「と、取られた訳じゃないわよ!!
あの子が人の客を誑かすのよ、
ほんと嫌になるっ!!」
どたどた……
わたしをじろりと見合い、
毒づいたまま、その場から離れていく。
毎朝毎朝、飽きもせずよくやるものだ。
わたしから離れれば、今日の客はどうだった、
今朝はどこで朝ごはんを食べようだのと
黄色い声を弾ませる。
「………、はぁ」
?「Aさん」
「…!ひ、日輪さん!」
突然、後ろから名前を呼ばれ
振り向くとそこには
車椅子に乗った、日輪さんが微笑んでいた。
日「みんな、これから外に出て
遊びに行くそうね。あなたは行かないの?」
「……ええ、わたしは…」
日「鳳仙亡き今、遊女と言えどわたしたちは家族。
もう自由に暮らしていいのよ?
わたし、Aさんのこと実は前から少し気がかりでね…。
ここは…わたしの元では、住み難いかしら」
日輪さんの眉が下がる。
わたしは慌てて、否定する。
「そんな…!まさか。
鳳仙の支配下時に比べたら、
ここは安息の地ですよ」
日「そう…?それなら、よかったけど…。
あなたも鳳仙に見初められた人だったわね」
「……ええ。
親に売られてから、片田舎でずっと禿をしていました。
その村が戦火で廃墟となり、死に損ないのわたしを
鳳仙が拾ってくれたんです。
もう5年も前のことになりますが…」
日「…あなたは禿も長いし、
芸だけじゃなく、そろばんや文学、花も出来る。
……もし、ここでの生活が不服なら吉原を出ても、」
「不服なんて、ありません。
…わたしにはこれしか、できませんから」
日「…Aさん……。
あ、あのね、えと、あなたは
上客もたくさん抱えているし
こんなこと頼むのも悪いんだけど
ある人にお礼として、
一晩付き合ってあげて欲しいのよ。
頼まれてくれないかしら?
誰より、Aさんがタイプだと思うの、その人」
「…日輪さんのお知り合い、ですか?」
日「ええ、ただお酌をするだけでいいから!」
酌だけだろうがなかろうが、
わたしの返答は決まってる。
日輪さんの頼みを断る筈もない。
「ええ、もちろんです」
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作者名:美雨 | 作成日時:2019年2月27日 23時