三 ページ4
少女は「いいんです、どんな些細なことでも」
と頷いて、それで交渉が成立したと
言わんばかりに微笑んだ。
それから拙者がくしゃみをしたので、
彼女は慌てて拙者を風呂場へと案内した。
家主より先に入って良いものかと思うも、
本当に風邪を引いてしまいそうだったので
後で挽回することにした。
見たところ、この家には少女以外に人がいない。
彼女は拙者と同年代、
もしくはそれ以下のように見えた。
一般的にはまだ
親元で暮らしていてもおかしくはないのだが、
一人暮らしなのだろうか。
思考を巡らせるも、
結局は彼女に聞くのが一番早い、という結論。
身体を清めてから熱い湯船に浸かれば
芯が溶けていくような心地良さにうっとりする。
久しぶりに温かい湯に浸かった。
やはり稲妻人といえばこれであるな、と
肩まで浸かって身体をゆったりと温める。
途中、彼女が戸越しに
「楓原さん、着替え置いておきますね。父が若い頃着ていたものを引っ張り出したんですが、裾が合わなかったらすみません……」
と声を掛けてきた。
お礼を言いつつ、
こんなにもてなしてもらって良いのだろうか、と
どこか罪悪感すら覚えた。
旅の思い出を対価に求められたが、
まだ浪人となって数週間の自分の話に
彼女は満足してくれるのだろうか……。
贅沢にも10分ほど湯船に浸かってから、
ようやく腰を上げて風呂場を出た。
こんなに心地良いのは久方ぶりで
思わず寝入ってしまいそうになった。
彼女が用意してくれたのは
少しくたびれた藍染めの浴衣で、
寝間着には丁度いいものだった。
裾はやはり少し余ったが、
これくらいは許容範囲内だろう。
居間に戻ると、
とても美味しそうな焼き魚の匂いが漂っていた。
見てみれば味噌汁や米、煮物から漬物まで揃った
立派なお膳が用意されている。
ただ肝心の魚は見当たらない。
恐らく今ちょうど焼いているのだろう。
拙者が出てきたのに気付いたのか、
前垂れと三角巾を着けた少女が
菜箸を持ったまま台所から顔を出す。
「お湯加減いかがでした?」
「実に良い湯であった。……これは全てお主が?」
「はい。あ、でもそのぬか漬けは母が漬けたものです。とっても美味しいんですよ!」
「ほう。それは味が楽しみでござるな。拙者もなにか手伝えないだろうか」
「ふふ、期待していいですよ。魚ももうすぐ焼き上がりますので、どうぞ座ってお待ちください」
そうでござるか、と拙者が返すや否や
彼女はすぐ台所へと戻っていった。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーカラー
あずきいろ
おみくじ
おみくじ結果は「末凶」でした!
今日の植物
ハイビスカス
275人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…( ; ; )最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります! (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Re: | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年7月19日 16時